「分かるか?」
「、はい。」
開けた場所に出る。あたりは静寂が満ちていて、荘厳な雰囲気が支配していた。
この雰囲気を作り出しているモノがいる。長年人外とのつながりを深めてきた孫兵にはそれが分かり生唾を飲み込めば、背筋を冷たいものが滑り落ちた。
葵の問いかけに答えると、彼は満足そうに笑む。
「流石だな、孫兵。…神夜、おいで。我らが友人にふさわしいだろう?」
カグヤ。そう呼びかけられた木々の奥からゆっくりと銀が現れる。
「、っ!」
「大丈夫。」
視線が、合う。探るような眼差しを孫兵に向けたそれは、山の主と呼ぶにふさわしい巨大な狼であった。輝くような銀色の毛並みに、夜色の瞳。
縫い付けられるように威圧された孫兵の肩を葵が優しく抱く。
永遠とも思われた見つめ合いは実質数秒で完了する。
「認め、られた…?」
「良く分かるな、そうだ。神夜は孫兵を認めたんだぞ。」
呆然とする後輩を竹谷は笑顔で褒め称える。
悠然と毛繕いを始める姿は優美なもので、哺乳類に関心の低い孫兵ですら見とれてしまう。
しかし我に返るなりすぐさま質問を開始する。
「それで…何で僕がここに?というか彼…?」
「彼で合ってる。」
「彼と先輩方はどんな関係なんです?」
「神夜はな、僕の相棒なんだ。」
「葵先輩の?」
「そう。それで、孫兵を連れてきたのは、」
葵は言葉をきり、腕に巻きついていたきみこをそっと竹谷に預け狼に近寄る。
愛しむように撫でられ、狼も気持ちよさげに目を細めた。
「二人とも、近くへ。」
竹谷は静かに、孫兵は慎重に歩を進める。
狼の探るような眼差しが愛蛇たちをとらえ孫兵にも緊張が走るが、先ほどと同じようにすぐさま解放された。
「ジュンちゃんもきみちゃんもよく散歩をするだろう?」
「ええ。僕と一緒のときもありますし、」
「そうじゃないときもある。」
"脱走"ではなく"散歩"と表現するところが後輩のお気に召したのだろうなと竹谷は推測する。
「で、まあ。神夜が捕食するってことはないけどさ、神夜には知らせといた方が色々安全だろうから。」
「そう、ですか。有り難うございます。」
「プラスして孫兵の顔も知らせとこうかな、と。」
「?」
僕やハチに何かあったときに神夜のこと知ってる人がいないとな、と葵は笑う。
ヒトでないものを人間と同列に扱うその態度は、孫兵が欲しているものだった。
「僕、」
「んー?」
今日はこれで、と相棒に告げ先立って歩く背中に声をかける。
「僕、やっぱり先輩たちのこと嫌いじゃありません。」
振り返って笑う二人に、本当に出会えて良かったと感じた。