「伊作先輩、今日の委員会は薬作りですか?」
「そうだね、風邪が流行りだしているから。今日作っておかないと…あっ!」
「どうかしましたか?」
「あー、材料が足りない。」
思わず頭を抱えてしまう。風邪薬に必要な薬草が一種類、足りない。この時期に備えてあったものを先日五年生の授業で大量に消費してしまったのだ。
「あららー、どうしましょう。」
「風邪薬は作っとかなきゃこれから困るんだけど、予算がなぁ…」
「僕たちの、せい?」
「仕方なかったとはいえ。」
「すごくスリルー。」
下級生が組んだ予算ではあれがギリギリだった。これは必要経費として会計委員会に請求するしかないが…
「潮江先輩、許可してくれるかな?」
「無理じゃない?」
「風邪をひくのは鍛錬が足りんからだ!とか言われそう…」
「確かに…」
うーん…と頭をひねっていると、葵が入ってきた。
「はろー。…あれ、まだ棚倒れてないんか。」
「いつも手伝ってくれてるのは本当に有り難いんだけどね、葵。第一声がそれはひどいんじゃない?」
「まあまあ。で?どーしたよ。」
「矢崎葵先輩ー!斯く斯く然々なんですー!」
「へぇ。」
見せてみ、と僕の手元を覗きこむ。
「アケヒスイ、か?足りないの。そういえば兵助が授業で使ったっつってたなあ。」
「うん…時期遅れだから安くは手に入らないし…」
風邪の季節にはずいぶん値上がりするんだよなぁ、と呟いて彼を見やる。唇を指でなぞり、思案顔。この仕草は何か迷っているときのもの。
しかし葵は決断が早い。その仕草が続くのは今回もほんの数秒だった。
「アケルリでも代用できるよな?」
「うん…?できるけど、そもそもアケヒスイがアケルリの代用だよ?」
「どういうことですか?伊作先輩。」
「えっとね、本来アケルリの方が効果は高いんだけど花弁しか使えなくて儲けが少ないから育てる人も少なくて単価が高いんだ。」
「アケヒスイなら丸ごと使えますもんね。」
「花びらを摘み取るのは手間もかかりそうだしね。」
薬草について一通りの講義をすると後輩たちは葵を見つめる。
「それで、葵先輩はなんでアケルリの話をなさったんですか?」
「ん。アケルリなら、手に入るから、さ。」
「本当にっ!?」
「おわ、伊作。体格を考えて振る舞え。頭ぶつける。…で、まあ。手に入ることは入るんだけど、人手がいるからな。手伝えよ?」
「もちろん!みんなも手伝ってくれる?」
「はーい!」
うん、良い返事。