「お帰りなさい、山田先生。」
「あぁ、土井先生。ほれ、鉢屋。」
引っ張り出された三郎は憔悴しているようだった。
「あ…えっと。ご迷惑をおかけしました…?」
「現在進行形でな。鉢屋…そう思いつめるな。」
「はは…私、そんな顔してます?」
「今にも首つりそうだ。もしくは人でも殺しそうだな。」
「殺しては…いないと思いますよ…」
後日山田先生が語ったところによると、まさに殺す勢いだったのをどうにかなだめて連れ帰ってきたらしい。
「お前なぁ…彼女が怪我したの、自分のせいだと思ってるのか?」
「…私のせい、みたいなものでしょう。
あんなに純粋で、美しいものを、汚してしまった。汚させてしまった。今までも、これからも…ずっと見守っているつもりだったのに。
世界がどんなに荒んで私の手が染まったとしても、彼女は美しいままであると信じていたのに。
感情を殺してでも、こちらとの繋がりができないように、細心の注意を払ってきたというのに…!」
激昂する姿も、つらつらと紡がれる心情も、鉢屋三郎には珍しいものだった。
教師はしばし黙考し、三郎の肩をたたく。
「らしくないな、鉢屋。私達の知っているお前なら、彼女を守りきれるはずだよ。彼女はまだ生きている。今からでも遅くはないんじゃないか?」
その言葉に三郎は顔を上げ、体の力をぬいた。
「夜もまだ深くない。彼女のところに行ってやりなさい。人払いはしておいてあげるから。彼女には素顔で接したいのだろう?」
「…は。先生にはまだ、かないませんねぇ。」
「伊達に生きてるわけじゃあないさ。」
ああそうだ。私は"鉢屋三郎"なんだ。これは良い機会と捉えるべきなのかもしれない。
一度できてしまった繋がりは仕方ない。ならば私が想いを伝えることも許されるだろう。
一生見守るだけと決めてはいたが…もはや状況が違う。あんな誓いは無効だ無効。
さあ、待っていなさいよ私の姫様。
心の内で決心を固めると、鉢屋三郎は仮面をはぎとり扉に手をかけた―――