「結構な怪我だけどね、命に別状はないよ。新野先生も大丈夫だろうって。」


伊作の言葉に胸をなで下ろすも、五年の三人は沈黙を続ける。

互いに視線を合わせたりはずしたり。

何かを言いたいようで言えない様子に伊作が声をかける。


「鉢屋くんの知り合い、だっけ?どこの子だろうね。ずいぶん可愛らしい娘さんだけど。」

「あの、多分…町の茶屋の人だと思います。」

「おや乱太郎、知り合いかい?」

「私は見たことがあるだけなんですけど、前きり丸が一緒に働いてて…」

「成る程。先生方には?」

「土井先生も顔を知ってるらしくて、さっき家に行ってみるって言ってました。」

「なら心配ないかな。山田先生も鉢屋くんを追ってくださったそうだし、ほら、元気出しなって。」


伊作の励ましに雷蔵が顔を上げ、苦笑する。


「三郎の実力は良く知ってますし、心配はあまりないんですが…あいつのあんな顔、初めて見たから…」

「今後も見たくないね。」

「俺は三郎の様子は知らないけど、あの子の必死さがなんか…」


二人の振る舞いは二人の関係が知り合い以上のものであると印象づけてしまったらしい。


「しかし三郎についていける女の子ってもっとこう…海千山千なイメージだったんだけどなぁ…」

「確かに可愛いけど普通の子っぽかったな。」

「そうでもないかも。」

「雷蔵?」

「あの時、僕の方が三郎より前にいたじゃない。あの子、僕に目もくれずに三郎を見たんだよ?間違えなくても少しは驚くものだと思うけど。」

「確かになぁ…」


そんな話をしていると、土井が少女の親らしき人物を連れてきた。

新野も衝立から顔を出す。


「はじめまして。矢崎と申します。」

「はじめまして。娘さん、気がつきましたよ。」


そう言って衝立を片づけた。少女は背中の傷に触るのか、体をおこしている。


「葵…!」

「お父様、心配をかけてごめんなさい。本当はすぐお家に帰るべきだったのでしょうけれど、鉢屋さまが心配で…」

「あの少年か。人柄は良さそうだったがお前に怪我をさせた男だぞ…?」

「鉢屋さまがなさったのではありませんわ。私があの方の話をしたから悪いんですもの。あら、鉢屋さまのご学友…かしら。はっきりと覚えていないのだけれど…ご迷惑をおかけしました。」


頭を下げようとする彼女を新野と伊作が制する。
しかし父にキッパリと物を言うあたり、芯の強い娘なのかもしれない。


「あの…僕と三郎を間違えたりしなかったんですか?」

「敬語は結構ですよ。貴方と鉢屋さまを…?何故かしら。」

「え?だってコイツと三郎、顔同じでしょ?三郎がコイツの顔かりてるんだけど。」


矢崎親子は顔を見合わせる。


「兄弟ほども似ていらっしゃらないと思いますけれど。」

「間違いようがないと思うが。」

「え…」


今度は生徒と教師が顔を見合わせる。


「誰か他のやつに化けてるのか、素顔なのか…」

「あの反応をするくらいだから素顔を見せてても不思議じゃないかもね。」

「化ける…?あぁ、鉢屋さまは忍術を?もしかして貴方たちも?」

「ここは忍術学園で、僕らが生徒。で、この二人は先生だよ。」

「まあ!すごい方でしたのね…」


感嘆し、父を見やる。


「お父様は知ってらしたの?」

「なんとなく感づいていた程度さ。優秀なんだろうね。」


親子の会話に引っかかりを感じたのか、土井が口をはさむ。


「鉢屋は一学年上の生徒にも並びますから…しかし葵さんは知らなかったのかい?」

「えぇ。修行中、としか…」


その返答に土井は何かを考えるように黙り、ここでドクターストップがかかった。

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