「主は、何を望む?」
二つ名の元となった、その鋭い眼光は反らされたまま。
「今更…や、そうでもないのかな。面と向かって聞いてきたのはミホークが2人目だよ。」
聞かれて即答できることじゃない。何より真意の見えないその問いに、どう答えるべきなのだろう。
「そうか、意外だな。主が見せる力への執着は目を見張るものがある。世界政府は主の一挙一投足に気を配っておるぞ、気づいていないということもあるまい?」
「そ、だね…」
あぁ、体が重い。身を投げ出した格好のまま、空を見上げる。今なら七武海は愚か一兵卒にも負ける自信がある。まさしく満身創痍。
「そうまでして。わざわざ死線に赴いてまで何を求める。もはや海軍の最高戦力をも相手取れるだろう?」
「まだだよ。まだ、足りない。足りないったら足りない。ぜんっぜん足りてない。」
「…ほぅ。」
珍しいものでも見るように、ミホークの視線が一瞬こちらを向く。
最高戦力と対等?そんなんじゃお話にならないんだよ。
「私は、守るの。全部守る。守ると決めたものは何があっても手放さない。」
どこまで強くなっても万全じゃない。バスターコールを片手間で防ぎながら四天王を捌いて、その上で通りすがりの旧友と立ち話するくらいじゃなきゃ、意味がないんだ。
「何にしたって、そんなに興味ないくせに。」
「どうだかな。では問いを変えよう。ライア、主は何を敵に回しているのだ?」
「さぁね。」
全てが敵になりうるのだ。もしかしたら私が守りたい対象それ自体が敵になるのかもしれない。
呆れた、といったようなため息が漏れた。
「戦う相手すら守りたいと言うか。主の願望は理想論を凌駕する。」
「ふふ、滅相もない。」
「誉めてはおらぬぞ。」
貶してもいないんでしょう?と言えばまぁな、と答える。
もう一度こちらに向いた瞳は珍しいことに優しく細められていた。
「主は。おれが何を言おうと、世界がどうなろうと―――好きに生きるのだろう。それは主の強みで、力そのものだ。おれは観客として楽しませてもらうことにする。」
「ん。見ててよ、ミホーク。とびっきりのステージにしてあげるんだから。」
健闘を祈る。笑い声を忍ばせてからそう言って身を翻えす。
数歩の後立ち止まり思い出したように呟いて、振り返ることもなく立ち去った。
「たまには息抜きに付き合ってやる。」
友人のその、最上級の労りと激励に答えるならば。
「たまには暇潰しに付き合ってあげるよ。」
この足が、立ち上がる力を取り戻したならば、必ず。
だから、もう少しだけ、待っていて。