「曹長…!」


己を咎める声。それはそうだろう。海軍としての使命を拒否しているのだ、私は。

だけど。

海兵としての責務を全うできなかった己の代わりに、市民を救ったのは何者だ?神か?政府か?

海賊、だった。

憎むべき、存在に負けた。信念を覆されてしまいそうだ。どうしてこうなった?

私が弱いからだ。

ああ、もう…


「たーしぎ君。」


明るい声。思わず頬を緩めかけてから、我に返る。今は会いたくない。


「ライア、さん。」

「お疲れ様。…ずいぶんと思いつめた顔だねぇ。」


返事をしなければ。彼女は憧れの存在でもある。だけど、なんて?海軍でもない彼女に弱音を吐くのか?

そもそも彼女は、賞金首でありながら海軍を上回る働きを見せている。

今のたしぎにはライア・アルーフが恐怖の対象だった。

海軍なんていらない。まともに動くこともできないんだから。

そんな言葉が聞こえる気がした。


やめて、私は――


「たしぎ曹長っ!」

「は、はいっ!?」


空気を斬る勢いで呼ばれ、背筋が伸びる。

しっかりと顔をあげれば、彼女は笑った。


「色々考えんのは、帰ってからにしなよ。たしぎ君がそんなんじゃ、部下がどうにも動けないだろう?…とりあえず、帰りなさい。立派なお人がついてるでしょう、貴方たちには。大丈夫だよ。」


大きな背中が目に浮かんだ。


「…ええ、そうします。ライアさんは、」

「私?私は、彼を宮殿に届けないと。人手を借りられる?」


海賊ではないらしい。ならば問題なかろうと、部下を一人向かわせた。


帰還します、と宣言する。ライアに一礼し、方向を変えた。


「たしぎ君。」

「はい?」

「海兵さんがいたら伝えておいてくれ。ありがとう、おかげで主人を失わずに済んだ。…とね、言われたんだよ。」


私じゃない。この国を救ったのは、


「ちなみに。」

「?」

「そのご主人は、バロックワークスに斬られるところを海兵に助けられたんだそうな。」


貴方たちがいたから救われた命があることは、知ってて。


女曹長は心の奥がほんの少しだけ、暖まるのを感じた。

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