「只今戻りましたよ大将青キジ様、っと。」



やる気が出ないながらも執務室に形式上とどまっていると、窓から少女が現れた。



「おかえり。…っていうか普通に入ってきなさいよ。」



「賞金首に海軍本部の正面口から入れって?危ないじゃんよそんなのー。」



軽口を叩くライアにため息をつく。

自身の前に立つこの少女が海軍上層部の取引き相手であることはもはや暗黙の了解となっており、ある程度の階級をもつ者ならば彼女をここに通すこともできる。

侵入者めいたことをする方が余程危険であるのに、あえてそうする意味が分からない。



「はぁ…まぁ良いけど。で?随分時間がかかったじゃない。」



無論、事実上賞金首である彼女の仕事は表だった海軍の"任務"とは程遠いものであるから、時間がかかっても口出しはできないのだが。

今回の仕事は優秀な彼女を手間取らせるほどの内容だったろうか?



「あぁ。シャンクスのとこの宴に参加してたの。」



「、赤髪!?…仲が良いのは知ってたけど…これ持って?」



これ、と言ってクザンが持ち上げたのは、ライアが持ち返った海軍の機密書類である。



「そだよ?」



あっけらかんと答えてくれたが、はっきり言ってとんでもないことである。



「あのねぇ…」



「別に良いでしょ?シャンクスもミホークもそんな紙なんかに興味ないよ。そこらの雑魚海賊じゃないんだから。」



「鷹の目も一緒だったの…」



ライアの人脈の節操なさにはもう呆れるよりない。



「それにさ、何様俺様海軍様の不祥事もみ消しなんかつまんないの。シャンクスみたいな楽しそうな所に行きたくなっても仕方ないよー。」



それを言われては返す言葉もない。

大将レベルの戦力を持ち、かつ単独で動ける彼女はそういった"裏の仕事"にはもってこいであり、事実重宝している。



「そんなに心配なら海軍でどうにかしたらー?」



理解しているだろうに、面白そうに言う彼女は年相応に見える。



「海兵には正規のお仕事があるの。そんな簡単に放り出せるわけないでしょーが。」



クザンはしてないくせに、と呟く彼女に咳払いをする。



「で、次ね。」



「あれ?まだあるの?海軍最近は落ち着いてると思ったんだけど。」



「あぁ、これは海軍からじゃなくて。」



途中で言葉をきり、ライアの反応を待つ。

彼女は予想通り微笑んで了承した。



「いーよ。クザンのお願いなら聞いてあげても。」


長い付き合いになるライアの返答は、いつも自分を勇気づけ、自信を与えてくれる。

地位と引き換えに失った自由を、所属によって制限される信念を、彼女は拾い上げてくれるのだ。




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