剣士の頂点に立つ男、ミホークは今日も暇を感じていた。
それは仕方ないことなのかもしれない。彼を満足させられる者は少なく、この広い海ではそうそう出会うこともないだろうから。
よって遠目に捉えた海賊船を"暇つぶし"というはた迷惑な理由で一刀両断してみたのは彼にとってのみ当然のことだった。
船の異変に気付いた船員は面白いようにパニックに陥った。
人がゴミのようだ、とかの大剣豪が思ったかは定かでないが尚もつまらなそうにその光景を見つめる彼を満足させられる数少ない人間が、現れた。
船から静かに現れた人影は周りの騒ぎに目もくれずミホークのいる方向へと、飛んだ。
といっても海賊船とミホークとの距離はざっと数百メートル。
翼を持たない生き物にとって絶望的なその距離を無視するかのように、銀髪をなびかせて"空を渡る"その姿は芸術的ですらあった。
それを確認した大剣豪の口元には微笑。退屈な時間が終わったことを悟った為だろうか。
軽い音をたててミホークのそばに降り立った彼女、ライア・アルーフは苦笑をにじませて彼に話しかける。
「久しぶり、でもないか。また暇つぶし…だよね?」
「あぁ、予想以上の収穫があったがな。」
別に狙った訳ではないと言外にこめて返せば彼女も分かっていると視線で答える。
「まぁ気にいった海賊でもないから良いけどさ。」
ならば何故乗っていたのかと言葉を出さずに問うミホークにライアは事情を説明する。
「海軍さまのご依頼ー。ちょっと重要な鍵だかお宝だか知らないけど、それがうっかりあの海賊に取られたから奪い返せって。だから忍びこんでたの。」
「そうか。」
ライアはハプニングがあったからと言って仕事を簡単に諦める人間ではない。
それを承知の上だからミホークも謝罪はせず、成功如何も問わない。
海軍の不祥事をライアが軽々しく口に出したのはミホークがそれを言いふらして喜ぶ阿呆でないからだ。
こうもお互いのことを把握していると案の定、沈黙が支配する。
元より騒がしくなる面子ではないが、その沈黙は小さな羽音を二人の耳に届かせた。
ライアの視線の先には一羽のかもめ。
ミホークは視線を向けはしないが、それはかもめにとってある種の救いである。
鷹の目に萎縮しない鳥はあまりいないから。
差し出された新聞を受け取り金を払うのもちろんライア。
仕事を終えたかもめはすぐに飛び去る。視線がなくとも威圧感は圧倒的だ。
「うん?…ミホーク。」
差し出された手配書を見てミホークも目を細める。
「ほぅ…初の手配でこの金額か。」
"麦わら"
―モンキー・D・ルフィ―
三千万ベリー
「流石だね。…ミホーク、暇なんだっけ?」
「あぁ。ライアも行くか?」
「もちろん!って…まだ何も言ってないんだけど?」
「赤髪の所だろう。ライアの考えなどすぐに分かる。…表情に出しすぎだ。」
「…私の顔なんか見てなかったじゃん。」
「では雰囲気だ。」
ミホークってなんか不思議っ子だよねー。間違っても本人には言えないけど。