私は別ルートをとるから、と言って船を降りた。
そうしたら…挨拶でもしておこうかな。
「おかえりクロちゃん。」
「!…ライア。なんでてめぇがいやがる。」
「なんでだと思う?」
自室の前に佇んでいたライアを、クロコダイルは招き入れる。
「暗いとこだねぇ…あ、お茶淹れるー。」
「ほっとけ。勝手にしやがれ。…理想郷の建国でも見物しにきたか?」
自分に紅茶を淹れ、クロコダイルの前にはウィスキーを。
「んーん。あんま興味ない。あ、私にもお酒ー。」
「珍しいな。てめぇが酒飲むとこなんざ初めて見たぜ。」
クロコダイルの言葉にライアはにぃっと口の端を吊り上げた。
「しばらくクロちゃんと飲めなくなりそうだからね。…うぇ。やっぱり甘いのが良いや。」
「ガキが。ライア…俺が負けるとでも思ってんのか。」
「負けそうな気はしてる。でもそれ以上に、クロちゃんが勝ちたがってる気がしない。」
何言ってんだ、と眉間にしわを寄せる彼を見て彼女は笑う。
「だあってさぁ。"ユートピア"なんてつまらないものクロちゃんが作りたがると思えないもの。」
「…だとしたら、俺は何の為にこんな茶番をしていると?」
「え、いつもの遊びじゃないの?引っ掻き回すだけ引っ掻き回しといてつまんなくなったらバイバイ、みたいな。」
「てめぇは俺を何だと思ってんだ。」
クロコダイルは呆れるも、その口調に怒りは感じられない。
「んー…快楽主義者?っていうか茶番だと思ってるのは自分の行動に対してじゃなくてこの国に対してじゃない?」
ライアの言葉にグラスを弄びながら思案し、クロコダイルが発した言葉は全く答えになっていなかった。
「ライア、今からでも良い、俺と来い。」
「いかないよ。結局つまんないのね?」
「お前がいりゃあ楽しくなると思うんだが。」
「何をさせる気なのやら…面倒な予感しかしない。で?今回は何が失敗?」
クロコダイルはため息をつき、ウィスキーを呷る。
「予想通りに行きすぎた。」
「うわぁ。…そんなの仕方ないじゃん。クロちゃんは理想が高すぎ。遊びに本気出しすぎ。こんな用意周到な罠、平和な国には難易度高いよ。」
「うるせぇ。手ぇ抜いたら面白くねぇだろうが。」
「結局失敗してつまんなくなってるんだから同じじゃない。」
不満だ、という感情を前面に押し出す友人を見てライアは苦笑する。
「もしかして、さぁ…期待してたわけ?」
「ヒントは十分与えただろう。」
「クロちゃんが砂の能力者だとか工作に下っ端使ったとか?」
反応を返そうともしない姿はまるで子どもだ。
「集めたメンバーのレベルがおかしいとこから駄目だと思うけど。まぁねー。国王をもうちょっと信頼してたら反乱なんかしなかったかなぁ。」
「その位の絆はあると思っていたんだがな。」
「夢見すぎ。命がかかってれば普通こうなっちゃうって。…あれ?麦わらは予想外じゃないの?」
「ただのバカなルーキーだ。あのレベルはどこにでもいる。既に消した。」