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また来た。来てくれた。
僕の所に。
頬をピンクに染めて、僕を見上げて話す君が愛おしくてたまらない。
だけれどこんな君を見るのも今日で終わりになるだろう。
「私、決めたの。告白するわ。明日。今までたくさん話を聞いてくれてありがとう。まだ満開にはならないけれど、貴方が見守っていてくれるなら、きっと大丈夫だよね。」
いつもより強い眼差しで君はそう言った。
"桜の木の下で告白すれば成功する"
ありきたりな、どこにでもある噂を君は信じた。
なんの証拠もない。それでも成功するだろう。君の恋は。
君がいつも嬉しそうに話すアノ人は、僕と同じ気持ちだから。
―お前はそれでいいのか、桜の木。
声が響いた。
良い訳がないだろう。
それでも僕はあの子の幸せを、いや、そんなのは建て前で、僕自身を守るために。
あの子は人間で、僕はそうじゃない。
恋をしたりなど、するものか。
初めて、そしてきっと最後の、嘘をついた。
誰に対してかは、分からなかったけれど。
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