なんて美しい!
「天使を見た。」
男が言った。
「あれは天使だった。恐ろしく美しい天使。」
熱に浮かされたようになおも続ける。
「悪魔だろ。」
薄暗いバーのどこかから、馬鹿にしたような声がかかる。
「そいつは黒かったんだろ?」
窘めるようなマスターの声に、男は興奮を募らせる。
「あぁ、真っ黒だったさ!漆黒と言っても良い程!」
熱の抜けない叫びに周りの男達も気圧され始める。
「確かに漆黒だった。だけどあれは、誰が何と言おうと"天使"だったんだ。」
恍惚とした表情。
「そりゃ、天使が白くなきゃいけないって決まりがある訳じゃねぇけどよ…」
誰かの呟きが、いやに大きく聞こえた。
(ただの幻覚だなんて誰が言える?)
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