10
「Ha!こんなもんか」
「魔王を返り討ちにした男とは、真だったのでしょうか」
「どうでもいいだろ。俺には関係ねぇ」
そう言って、歩き出す音が聞こえた。
俺は心の中で念じる。
「(ドラグナー!)」
眩い光が、俺の上に積もっている雪を弾き飛ばした。
そのまま立ち上がると、山を降りようとしていた二人が目に入った。
二人は俺の方を見て、驚いた様に目を見開いていた。
「行かせてたまるかよ!」
禍々しい響きを含んだ俺の声が、場に響く。
小十郎が刀を構えたが、政宗がそれを制した。
「下がれ、小十郎。こいつは俺の獲物だ」
「しかし!」
小十郎の制止の声を気にも掛けず、政宗が俺の方に駆けてくる。
政宗の刀が俺に当たる直前、俺は唱える。
「(ミラージュ……!)」
物理回避率を上げる魔法。
政宗の刀が、止まっているように見えた。
なるほど、回避率を上げると動体視力が上がるのか。
俺は、難なくその太刀を避ける。
「Ha!やるじゃねぇか!
なら、これならどうだ?」
と言って、刀を構え、力を溜める動作に入った。
政宗の周りに、青い電流が走っているのが目に見てとれた。
「HELL DRAGON!!」
さっきの技だ。
直感で、そう思った。
俺は宙に飛び退く。が、政宗も宙に飛び上がった。
「これで逃げ場がねぇだろ?」
これを狙っていたのか。
だが、俺の頭は冷静だった。
即座にこの状況を覆すものを自然と唱えていたから。
「政宗様!お気をつけ下さい!」
何かに勘付いた小十郎が、政宗に注意を促す。
政宗も何かに気付いたようで防御をしようとするが。
―---遅い。
「(アイスブロック!)」
ヒュォォォオッという寒々しい風の音が聞こえた。
それと同時に、空気中の水分が凍りつき、政宗に降り注ぐ。
氷の大きさ自体は小さいが、吹き抜ける風の速さが尋常ではなかった。
掠めた氷の部分から、血が流れているのがいい証拠だった。
「Shit!」
「政宗様!」
よく見れば、氷を掠めた武具が所々欠けている。
もし、威力を最大限の状態でやっていたら、砕けていたのではないか。
俺も向こうも、着地をするが、状況は先程とは反対だった。
俺に、風向きが変わった。
「二人まとめて掛かって来いよ」
挑発的な声を出す。
足止めは、俺の役目だ。
これ以上、村の人を傷付けて貰っては困る。
俺が駆け出すと、小十郎が前へ出る。
主従関係故なのか。そこまでは分からない。興味が無い。
「穿月!」
雷を纏った鋭い突き。
俺は宙に飛ぶ。だが、続けて政宗が技を出す。
「PHANTOM DIVE!」
三爪が俺を食らおうと振りかざされるが、俺はそれを横に払う。
多少表皮が裂けたが、これ位は問題ない。
下を見ると、小十郎が、下段の構えをしていた。
恐らく、"月煌"だろう。
俺は変化をする事にした。
「(イカロス!)」
ウロコのような両腕は翼となり、空を羽ばたく。
二人の驚いた顔が、どこか可笑しかった。
「空も飛べるって事か。」
「件の雷の術を使うやもしれませんぞ、ご注意を」
"ライトニング"の事まで知られてるのか。
まぁ、俺としては構わない。
「キャァァァァァアアアアンッ」
「「!!」」
鳥の様な騒々しい高音を出すと、二人は顔を顰めた。
俺は、その隙に鋭い爪の付いた足で二人を蹴り飛ばそうと即座に構えをする。
と、その時、政宗の後ろにグレイブヤードで見た女が見えた。
まるで、俺が攻撃するのを待ち構えてるかの様に笑っている。
俺は、攻撃を止め、上空で羽ばたいた。二人が不思議そうな顔で俺を見ている。
女が、吼える。
≪何故じゃ!何故仕留めようとせぬ!?≫
二人が辺りを見回さない所を見ると、この声は俺にしか聞こえてない。
二人の攻撃の届かない程度の高さで羽ばたきを続けていると、
挑発をするかの様に政宗が言う。
「Hey,monster!Escapeにはまだ早ェぜ?」
俺は、降下しながらフュージョンを解いた。
俺の意外な行動に、目の前の三人は動揺していた。
≪何をしておる!鬼子を仕留める好機ぞ!?≫
「ごちゃごちゃうるせぇよ、オバサン」
奇異の目が、俺に向けられる。
まぁ、そうだよな。普通の奴には見えないみたいだし。
俺は、政宗達を無視して、背後にいる女に言う。
「あのさ、俺は鬼退治とかそういう事嫌いな訳。分かる?
それに、好きで戦ってる訳じゃない。守る為に戦ってるんだ
そんなに殺したいなら、自分でやればいいじゃん」
≪妾は……妾は………!≫
この女、何だか知ってる気がする。
ゲームじゃない。だけど、どこかで知ってる気がする。
女の目が見開かれたのと共に、俺はその名を思い出した。
≪フフフッ……≫
「アンタ……!まさか……!!」
思い出した。梵天丸は、伊達政宗の幼名。
政道は、伊達政宗の実弟の名。
その両方を知っているこの女は…!
『アーッハハハハハハ!!!』
「What!?」
「政宗様、お下がり下さい!!」
耳障りな笑い声が、その場に響く。
女は異形の姿と化していた。怨霊が、妖怪と化した瞬間だった。
俺の、一言が元で。
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[mokuji]
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