くろもの場合 ずっと孤児院で暮らしていた、人間に対してもポケモンに対してもあまり特別な感情は持っていなかった。 しかし、それは突然に、なんの前触れもなく。神様がさじ加減を間違えたかの如く、今までの食事ができなくなってしまった。 そして何故か痛みの伴わない、壊死しやすい両腕になってしまった。 『人間のお医者様に診てもらいましょう、大丈夫よ、きっと治るわ。』 院のマザーはそう言って送り出してくれた、それが最後の別れになるなんて俺は知らなかった。 俺は売られたんだ。 この不可解で不可思議で珍しい俺を人間の実験動物として売られた。 『潰しても痛くないのか』 『内側から薬を投与するか』 『鉱石しか摂取不可か…都合の悪いやつだ』 思い出したくない、忌々しい3年間。 非合法の研究施設の中で、機械に縛られ食事も金がかかるからとろくに与えられず、生きるか死ぬかの瀬戸際を常に歩かされてる感覚は思い出しただけで鈍い痛みが体に走る。 いっそ死んでしまった方がいい、何度もそう思った。やせ細った体、コントロールの利かない両腕、喋る言葉すら忘れて、生きてる意味がわからなかったんだ。 でもある日、施設に何者かが侵入してきたんだ。ビービーとうるさい警戒音、ニンゲンは一目散に逃げだして俺は機械に縛られたまま。死ぬんだろうなあ、運良く助かっても鉱石以外食えないから、きっと死因は餓死だろうな。なんて考えてた。 『見ィつけタ』 『生存者1名確認!ありったけの金品取れたら上がるわよー!!』 大きなゴーグルをした金髪と、長い紫の髪を揺らした奴らが来た。 『怪我はしてないかしら?大丈夫?』 聞かれてもはくはくと口を小さく動かすことしか出来ない、声も言葉も枯れてしまってた。 『相当ストレスだっタみたイダネェ、言葉ヲ忘れたナンテ』 『なんてこと…!』 ガチャガチャと機械をいじったら簡単に椅子の拘束が解かれ俺はおぶられていた。 『キミ特殊体質らしいネェ、オイラに診セテよ、多少なら医学もカジってるカラさ』 『あなたの事を見つけて来たのよ、もう安心して!』 なんでどうして、意味がわからず背中で暴れ出す俺を髪の長やつがその髪で抑え込む。 生きていたって意味が無い、苦しいだけなんてもう嫌なんだ、涙を流して呻く。それでも彼らは離れようとしない。 『…落ちタラ上がるだけサ』 『一緒に歩きましょ、大丈夫よ、貴方はおかしくないの』 体温を感じながら俺は揺られる、無機質じゃない暖かさは本当に久しぶりで気が遠くなりそうだった。 案の定眠りに落ちて、夢を見た。 あたたかい、誰かを抱きしめてる夢、大切な人で守りたい人がそばに居る。そんな夢みたいな夢を見た。 そんなきっかけで俺は今ここにいる。 あれから俺の腕は義手として今までよりうんと過ごしやすい日々を送っているし、腹が減ったら奪いに行く。燃費がいいのか悪いのか、良い鉱石を食べれば数日は持つ、から良いのかな。 これが俺の話。 不幸とか言わないでくれよ?俺は今幸せなんだから。 過去は過去、捕らわれていても、歩み続ければきっとその過去は緩みきって、俺から離れていくだろう。 そうなるその日まで、俺は生き抜く。 聞き流してくれたら嬉しいぜ! END……? |