紫色





狂った二人の日常
さつきとメッキーの話



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カツン、カツン、乾いた靴の音が響く地下へと続く階段。大きな真っ赤な飴をガリガリ音を立てながら噛み砕いて食べる。ポケットにはまだ青色、黄色、紫色、緑色と毒々しい色の飴が溢れんばかりに詰まっている。
カツン、足音が止まった先には鉄の扉、扉には掠れた赤黒い色でNo.111と書かれている。そしてその下には白い色のペンキで大きくVIOLETと書かれている。その扉の鍵穴にさつきは鍵を入れた。
ガチャガチャと、数回鍵を回せば案外すんなり開く扉。その奥はなんともおぞましい物だった。

床に散らばった訳の分からないコード、理解し難いモノが入っている大きなガラスの試験管、コポコポと音を立て煮だっている蛍光色の液の入ったビーカー。薄暗い中でもキラキラと光り輝いている液体が入っている三角フラスコ。

「君モよくこンナ部屋で1日過ごセルネぇ理解シ難いヨ」
「あはは〜"こんな部屋"入れてるのはさつきさんじゃない」

ニコニコと笑っている少年は一見ごくごく普通の少年に見える。比較的痩せているようには見えるが、首と手足に付いた不釣り合いな鎖が"普通の少年"じゃないことを分からせる。

「…ま、君みタイなカニバリズム殺人鬼はココで十分か」
「酷いですよ〜僕だって外の空気吸いたいです。綺麗な場所でゆっくり深呼吸して新鮮な空気を体に巡らせたい。そして」
「人を殺シテ食べるんダロう?」

言葉の先をさえぎり、さつきは喋る。少年の笑顔は崩れない。

今から二年前、大きなニュースが世界中に広まった。まだ年端もいかない幼い子が人を殺し、食べたというニュースだった。何人もの子供を殺し、大人を殺し、食べた子供。それが彼、メッキーだ。

「死体の食べ方にはコツがいるんです。生で食べたらお腹壊すし。僕はミンチにして食べるのが好きかな♪お気に入りのソースと一緒にね。あぁでも目玉は生で食べるのが一番さ、魚の目玉は生で食べるだろ?あれといっしょなんです」

ケラケラ笑って話す。それはそれは楽しそうに。小さい子供が好きなものを自慢げに話すように、メッキーも楽しそうに嬉しそうに話している。

「いいねェ、君ミタイニ狂ってイル子は好キだよ」
「ありがとう。最高の褒め言葉ですよ」

どうして二人が一緒に居るのか、実はメッキーが刑務所から脱獄したとき、さつきはたまたまその現場を見ていたのだ。高い高い塀を乗り越え、返り血まみれの少年は、さつきの好奇心を駆り立てされるには十分だった。そして匿った。殺人鬼も一般人も同じ外見だから、案外見つからないのだ。木を隠すなら森に、人を隠すなら人混みにと言ったところだろう。
当初、メッキーはこのマッドサイエンティストを利用するつもりだった。時が立ち、逃げ出せるようになったらさつきを殺し、跡形もなく食べる予定だった。
しかし、あまりにも楽しそうに「何か」に没頭するさつきを見て、しばらくはここにいてもいい気がした。

「そウ言エバメッキーは、ドウしテコこの名前が VIOLETって書いてアルか知ってるカィ?」

そう言えばと、記憶をたどる。そもそもここから出たのがもう遠い記憶のような気がして実際どうでもよかった。

「さぁ?なんなんです?」

おどけたように手を挙げて質問を返す。短い付き合いだが、メッキーはさつきがこうされるのが好きなのを理解していた。

「〈火〉ノ赤と〈水〉の青ヲ併せ持ツコノ〈神秘的〉で〈不安定〉な色をソノ昔、学者タチハ愛〈変成の炎の色〉と考エ、暗い気持ちを明ルイ気持チニ〈変容〉させる炎の色ト意味づけたヨウダヨ。紫はとてつもなくながぁーい魂ノ闇夜の果テニ来る、〈恍惚〉ト〈霊的変容〉の色なんダッテ。まぁ諸説あるけどネ」

ポケットから飴を取り出し、咀嚼する。ガリガリ音を立てて原色の飴はすぐなくなった。それからまた出して、棒付きキャンデーを今度は齧らず、口の中に入れる。

「オイラは、変ワッテイクモノガ好きだカラ、そんな変化を愛している。だからVIOLETにしたんダ」

ニッコリ笑ったその顔は、年相応に見える。そう、壊れない物を作り出すなんて、馬鹿げた妄言を吐くような者には到底見えない。

「壊れてますね」
「お互い様ダヨ」

二人して、笑う。
それはそれは、楽しそうに。



傍から見ればおかしい、狂っている、アブノーマル、なんて言われ、罵られる二人だが、誰よりも生きることを楽しんでいる二人だった。






-End-

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