わたしは夜が好きだ。だって夜になるとウイネルくんがわたしのところに来てくれるから。だからわたしは夜が好き。天使様がわざわざわたしのところまで来てくれるのだ。本当はわたしもなるべく近くまで迎えにいきたいところなのだけれど、ウイネルくんが下界の人間は弱いんだから一人で歩くなと言っていた。だからわたしは彼の言うことを守って部屋で彼を待っているのだ。それに一回だけ言われたことを無視して迎えにいってみたら、普段見たこともないような怖い顔でたくさんたくさん怒られた。ウイネルくんは怒ったら怖い人なのです。いつもなら釣り上がっていても優しい目は鋭くて、本当に怖かった。なのでわたしは彼を迎えにはいかない。だってウイネルくんが怒ったら怖い。





「…今日は遅かったんだね、ウイネルくん」

「悪いな」





開けっ放しの窓から、月の光が部屋に入ってきていた。そこに月を背にして現れたのは、愛しき天使様のシルエット。いつ見ても綺麗な髪の色をしているなあ。まるで月の光を独り占めしたみたいな色だ。静寂が包んでいた部屋に響く心地良い声。天使の声はみんなこんなにもするりと耳に入ってくるものなのだろうか。





「ねえこっちに来て、そこ遠いよ」

「窓閉めるか?」

「そうしてくれると嬉しい」





ぱたんと窓が閉められて、この部屋は一気に静かになる。ベッドに座るわたしの目の前に立つウイネルくんに隣に座るように言ったが、首を横に振られてしまった。





「それに身を預けると寝そうになるんだ」

「あら、寝ちゃえばいいじゃん」

「下界の女の部屋で寝るわけにはいかないだろう」





天使様のプライドというやつなのだろうか。よくわからない。眠そうには見えないがやっぱり彼も眠いなか来てくれているのだ。ちょっぴり罪悪感。夜の独り歩きは危ない、特に下界の者は弱いから。初めて彼に会った時に言われたのがこの言葉だった。不快に思って眉をひそめたけれど、それはすぐに驚愕へと変わっていく。月を背にして屋根の上に立っていたのは天使様、ウイネルくんだった。わたしは夜の街を歩くのが好きだ。夜のお散歩。あの日を境にそれができなくなってしまったけれど、今では夜になると天使が会いに来てくれるのだ。少しの代償なら諦められる。





「じゃあ、お散歩しようよウイネルくん。夜の街を歩くの」

「…だから下界の、」

「違うよ、ウイネルくんも一緒だもん」





だから危なくなんかないよね。だってわたしにはとても頼もしい愛しき天使様がついてくれているんだもの。ウイネルくんは少し驚いたように数回瞬きを繰り返したが、すぐに仕方がないというふうに笑った。






明日君が僕を嫌いになったとしても、僕はきっとずっと君に心奪われたまま

わたしは天使に心を奪われてしまった愚かな人間の女。それでもわたしはこれからもずっと彼だけを見つめていることだろう。見失ってもきっと見つけられる。月の光がわたしを導いてくれるから。




----------------
(20101225) ウイネル

up.down!」さまに提出
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -