#3






「明日 付き合ってよ」

昼休み。缶に入っている燃料を飲みながら適当に過ごしていると名前さんが訪ねてきた。彼女は明日は貴重な休日だと話をかけて、俺は名前1さんからプライベートの誘いを受けた。残していた課題も予定の記憶もなく、オフの日が重なっていたからあっさり了承した。不意の誘いに驚いたというか、普段から自分の願望を人に言わないような、プライベートを控えている彼女が言い出したから一瞬名前1さんを疑ったくらいだ。訊けば何でもベース内に籠るのは、肩が凝るらしくて久しぶりに外へ出たいとのこと。気分転換なら、自分もちょうどいい。隣に居たゼロが「デートか、上手くやれよ。」冗談を言い出すから慌てて否定した。『お、俺はともかく彼女に失礼じゃないか!』少し声を上げると、部屋内に居る仲間の怪訝そうな目やゼロの好奇の視線を感じた。刺さるようなそれに後から自分が恥ずかしくなってきて、飲みかけの缶を簡単に潰した。嗚呼、勿体無い…。






「楽しそう!」


目に映る光景は機械仕掛けの遊具と、それに集まる人ではないか。ここに来る人は限定的で家族連れか若いカップル、観光客などだ。動物を象った遊具や乗り物が配置されていて、彼女は興奮しているのかパンフレットを凝視しながら先へ先へと行ってしまう。アミューズメントパーク。宣伝キャラクターから紐付きの風船を貰って喜ぶ子供、コーンアイスを頬張るカップル、空中には歓迎の言葉付のアドバルーンが浮いている。ここは大変長閑かな時間が流れていて、成る程息抜きにはなりそうだった。


「ごめんね、オフの日に付き合わせちゃって。慣れてる?こういう場所って」

『いや、全く。』

「あら…今日は最近憂鬱気味な誰かを元気付ける魂胆だったんだけど」


『なっ…、!?』

「元気なさそうだったから、ね?

『そんな、俺のために休日を…?』

「いいのいいの、私だってこんな場所久しぶりなんだから、充分楽しむつもりだし!」



名前1さんは普段から仲間の皆に優しい。が、ここまで尽くしてくれる人も中々居ないとも思った。横目で入場券の半券を見ている彼女を確認して、二人で雑踏に紛れていった。








園内のピクトグラムの案内図を辿りながら、8つほどアトラクションを制覇したころには名前1さんも満足していた。歩き回って足が痺れたと彼女が訴えたから、スクエアで憩うことになった。Sサイズのポップコーンを片手にテーブルセットの椅子に座っていたら、こちらの存在に気付いた鳩数羽が首を振って近寄ってきた。彼女は楽しそうにポップコーンを投げている。直ぐになくなりかけて、少ない量に驚く名前1さんをぼうっと見ていた。本当に落ち着きのある穏やかな時間だ。鳩達は降ってこなくなったポップコーンに不満そうに鳴いている。



「わー!ロックマンだー!」

『えっ、』

「あら、すっかり有名人ね」


幾つくらいの子供だろう。幼い面影を充分に離していない男の子が俺を知っているようで駆け寄ってきた。どうやら群れている鳩を捕まえようと追いかけてここにたどり着いたらしい。さっきまで足元にいた鳩達は、男の子に驚いて思いっきり羽音を響かせ羽ばたいていった。


『僕、俺を知っているのかい?』

「うん!ボクの街、ハンターが助けてくれたことがあるの!それで、ニュースにロックマンも出てたよ!だから知ってる!」

『…、知られてるなんて何だか恥ずかしいなぁ』

「ママもね、凄いねーって言ってたし、学校でもみんな知ってるよ!僕、ロックマンに会えて嬉しい!!」

『はは、ありがとう。俺も嬉しいよ』


その後も憧れの言葉を多々貰った。イレギュラーハンターはカッコいいとか、政府の軍隊は何よりも強いとか、終いには自分もハンターになりたいと言い出したからそれは丁寧にやめてくれとお願いしておいた。同時に男の子の保護者らしい大人が俺達に気が付くと、俺と名前さんに挨拶をして男の子の手を引いて元来た道へと引き返して行った。名前1さんは子供の扱いに慣れているようで、短い間にとても仲良くなっていたみたいだ。頭をくしゃりと撫でると手を振って送っていた。


『疲れたよ…。』

「あの子、すごいマシンガントークだったものね…。」


『……、…。』



疲れた。それ以上にあの男の子の言葉に何かが引っ掛かった気がする。「もう今日は帰ろう、」目の前に差し出された彼女の手にとても心が落ちつく物があった。遠慮なくその手をとると、温かい。名前1さんは特に意識してないようだが、じんわりと広がるこの感情の名前はまだ見つからない。


2010716