消えない






※漫画13巻







電脳獣は突然繁華街に現れ、現実になった。復活を喜ぶかのごとく力を解放し、咆哮は地響きを誘った。超音波化した電脳獣の遠吠えは私の悲鳴をかき消して、どんどん力を蓄えている。本能のままに逃げまどう人ごみに流されながら、私は電脳獣から遠ざかった。



緊迫した街の雰囲気に少しずつ変化が起こり始めるのは早かった。空気が変わって、現実世界なのに半分電脳世界のような空間に私は居る。王者のように雄々しい電脳獣は、この世界の終わりを望んで自らに世界を取り込み始めたらしい。立体物が光の粒子のように変わっていって、宙に消えていった。もはや国防軍や科学省に全てを委ねることしか出来ず私は破滅を呪う。



喪失感の最中、電脳獣を見るとその周りを赤い鳥が飛んでいた。赤はぴっぴっと空を切って機敏に飛びながら、電脳獣の出方を伺っているよう。波動の出し方や光るバスターを見て、鳥が彼だと知った私は唖然とした。それは光が彼を突き抜けるのとほぼ同時だった。



散乱した窓ガラスを踏みつけながら人込みに抗う。彼を知っている私は近づきたいと思った。ずっと後ろで国防軍か誰か、私を制止させようとする声が聞こえた。何とか生き延びようとこちらへ向かってくる人の流れは私を邪魔する。体のあちこちがぶつけられて痛いのに足だけはしっかりと動いた。



翼が裂傷して墜落した彼は瓦礫の上に這い出ていた。 「良かった、生きてた…。」動いている彼の姿を見て私は少しだけ安堵した。電脳獣はいつの間にか現れた青い狼のような光に圧倒されている。このまま電脳獣の消滅を祈る間も一瞬だけで、凄まじい力の後に気付けば街の景色は変わっている。


私をまだ殺さない電脳獣の隙を見て、地を蹴る。私の体の分解は始まりだして感覚は消えた。想いだけが体を突き動かして、ずっと後ろの方に何もかもを忘れてきてしまったような気がする。もう走っているかも分からない。



消えない心

2010504




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -