吸血鬼に生まれ変わった夏希は、冷静になると誰にもバレないように家に向かった

夜中という事もあったし、人が少なかったからだ

プラス身体能力が格段に上昇していたので苦はなかった


足音をたてずに車以上のスピードで走ったおかげか、家にはすぐ着いた

すぐに自らの部屋に向かった夏希は、鏡の前に立ち尽くしていた



すごい、怖いくらい綺麗
……これが…私なの……?

でもこの瞳の色は、恐ろしい


泣きそうになりながら夏希は鏡を見ている筈なのに、鏡の中の人物は美しい顔のままだ




「……吸血鬼はポーカーフェイスが上手いって事ね……」



美しい声音でそう呟くと夏希は直ぐ様行動を開始した


必要な物をカバンに詰め、自分の貯金箱から現金など大切な物も持ち出した

金額は少ないが、無いよりはマシだろうという思いからだ


こんな顔じゃ、お母さんには分かってもらえない

それに、もしも私がお母さんを襲って殺してしまったら……





悪い方向へ考える夏希だが、時間的には数秒しか経っておらず、いかに人間離れしたかが分かる

頭をふり、思考を払うと夏希は感じた


………ノドが渇く……
あぁ、飲みたくて堪らない……血が


今の夏希は人間離れした五感を持っている
だから家にある家族の“血”の匂いを感じるのだ


あぁ飲みたい――
この香しく、美味しそうな香りの飲み物が



ふらぁー、と身体を動かした瞬間、意識が戻る



ッ私はいま……!


夏希は愕然とした
吸血鬼になったからとはいえ、実の家族を襲おうとした事実に


……私は…なんて事をっ……!
いくらなんでも、家族を餌にするなんてッ!


自責の念に苛まれる夏希だが、おかげで血の誘惑に勝つことが出来たのだ



「…私は誰も襲わない……!」


難しい事だとは思うけど、絶対に諦めない



夏希はカバンを掴むと窓から風のように飛び出した


ヒュンヒュンと忍のように屋根の上を駆ける夏希たとえ人間が上を見上げたとしても気付かない程のスピードだろうそれほどのスピードで夏希は走っているのだ


こんなスピードで走れるなんて、スゴい!これなら吸血鬼になっても許せるかもなんて現金かな……?


走りながらうつらうつらとそんな事を考えている内に、夜が明けてきた

チラッと腕時計を見ると針は4時を指していた



「もうすぐ夜が明けて、人がいっぱい出てくる

それまでに隠れ場所を探さないと……」


吸血鬼になった少女はそう呟くと近くにある森に向かった


ここから少女の物語が始まったのだった




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