その日から私の涙の発作はぱったりと鳴りを潜めた。不安なことがあるとその日の内に必ず天ヶ崎くんに連絡をして話を聞いてもらうようになったからではないかと思っている。現在は涙の代わりに天ヶ崎くんが働いて、私の心の不具合を修正してくれているというわけだ。
いつだったか彼が言った。
「君の昔の恋人が言った『まっすぐな目』って、当たってるね」
「え?」
「自分の気持ちに嘘が吐けない、素直でまっすぐな目。だから涙の発作なんて起きたんでしょう?」
私はそれを聞いて感心した。なるほど。気持ちや思考で不安を自覚をする前に、この目は答えを出していたのだ。自分が綻んで崩れないように、正直な自分を見つけ出せるように。ああこれは、この目を授けてくれた神様に感謝をしなくてはいけないなあ。
「悔しいぞ」
不意に彼は呟いた。
「はい? 何が?」
「昔の恋人に名付けられた目を持っているなんて気に入らない。現・恋人であるおれが名前を付けます」
涙を飲むという奇怪な行動から薄々気が付いてはいたが、彼は少し不思議な思考回路を持っている。
「なんて名前?」
別に名付けられたとかじゃないんだけどなあ、と思いながらも彼の好きにさせてあげようと先を促した。
彼は「うーん」と唸りながら私の目を覗き込んだ。
「不安がなくて穏やかな目だから……」
***
私は笑って「いいね、それ」と言った。この目も彼のことも、ずっと大切にしたいと思った。
気付かせてくれありがとう。これからも素敵な景色を、きっと見せてね。
晴れやかでのどかな。
うららかな目
了
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