天ヶ崎くんが私との距離を一歩詰めた。
「さっき言いかけたこと教えてくれる? もし迷惑でなければ──?」
涙を飲むという仰天行為のせいで忘れていた言葉の続きを彼がせがんだ。ようやく空気を吸う感覚を思い出してきた脳が、先程の自分の台詞を思い出そうと動き出す。
しかし最初に脳裏に浮かんだのは、高校の頃の天ヶ崎くんの姿だった。
『あの、迷惑でなければ』
思い出した。あの時の彼の台詞。
『これから、もっと──』
かつての彼の幻影を、感謝を込めてかき消した。
一歩、今ここに居る彼に近付く。
涙は出ない。
「これからもっと、一緒に居たい、です」
恋かどうかは分からない、そう思う気持ちは変わっていなかった。だって私たちが共に過ごした時間はまだそれほどに多いものじゃない。だけれどこの気持ちが恋になる日はそう遠くない未来に存在するのだろうとも、思えた。
彼は笑顔のまま大きく息を吸って、吐いた。そうして「おれも」と小さく短く答えてから、私の目尻の辺りに軽い口付けを落とした。
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