口に当てていた手を下ろしてから、彼はぺこりと頭を下げた。


「自分勝手な理由で不機嫌になって、不安にさせてしまってごめんなさい」

思考が絡まってうまく考えることができない。高校の頃の彼と、いま目の前に居る彼が、頭の中で混ざる。

混乱して呆然としている私をよそに、天ヶ崎くんはけろっとした調子に戻って「涙の小瓶、持ってる?」と訊いた。

話がころころと展開していくことに付いていくのが難しかったがなんとか尋ねられたことの意味を理解してポケットから小瓶を取り出した。涙がなみなみと溜まっている。もうこの小瓶も持っている意味などないのだ。いや、最初からそんなものなかったか。私が「理由のない」涙だと思って面白がって溜めていた液体。だけれど本当は、心の不具合を自分自身に知らせるために出ていた警報だった。もしも私が人魚でも、これが宝石に変わったりすることはないだろう。これは私の、「不安」そのものだ。そんな暗い感情が価値のあるものに変わるなんてことはないだろうから。


「それ捨てる。最初から意味なんてなかったけど、涙に含まれた意味を知った今はもっと、持ってる意味がないもの」

小瓶を受け取った天ヶ崎くんに向かって言うと、彼はおもむろにその蓋を開けて「じゃあおれが貰うね」と同意を求めるように私を見た。

何故そんなことを言うのか分からなくて私は思いきり眉を寄せた。

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