何かが落ちたような物音が背後から聞こえ、なんとはなしに振り向くと先ほどのサラリーマンがうとうとついでに鞄を落としたようだった。さすがに目が覚めたと見えてあたふたと拾い上げている。その横顔はなんだか天ヶ崎くんに似ていた。彼を見つけたい気持ちが強いあまりに目の錯覚を起こしたのかもしれない。しかしそのサラリーマンはよく見れば見るほど天ヶ崎くんに似ている。似ている……いくらなんでも似すぎてはいないか?

不審者と思われてしまう可能性も厭わずに私が彼を力強く見つめているとさすがに相手も気が付いたようで顔を上げた。私を見て驚いたような表情をするその顔はやはり天ヶ崎くんにそっくりだった。


「皆川さん!」

というか本人だった。


表情を笑顔に変化させて近づいてくる。目の前に居る彼が本物なのかを未だ信じきれない私はひいき目に見ても可愛いとは言えない目付きで彼を睨んでいた。


「会えてよかったー! もしかして残業だった?」

お疲れさま。と微笑む彼は天ヶ崎くんだ、間違いなく彼だ。やっと動き出した頭で状況を把握した私は呟きのような声で「なんで……」とだけ言った。彼は申し訳なさそうな顔になり私の前で両の手のひらを合わせた。


「メールと電話、くれてたでしょ? 返せなくてごめん!」

聞くところによると。私と最後に食事をしたその日の夜、携帯電話をトイレにどっぽん、水没させてしまったのだそうだ。翌日携帯電話会社に行き修理を依頼したがなんとも不幸なことに代替え機が全部出払ってしまっていた。仕方がないので数日だけ仕事用の携帯電話で乗り切っていたそうなのだがもちろんそこに私からのメールも電話も届くはずがなく、結果的に私からの連絡をすべて無視する形になってしまったと。

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