時間は飛んで、終業時間。私は昨日と同じように駅のホームで立っていた。人、人、人。できるだけすべての人の顔を見ようと凝視する。万が一天ヶ崎くんが目の前を通ったときに見逃したくないからだ。

ふと、自分の行為がストーカー染みているのではないかという考えに思い当たったが、0,1秒の速さでそれを消し飛ばした。迷いがあると会えない気がした。

そう固く信じてはいてもこの人間の海の中で巡り合うことが至難の業であるのに変わりはない。眠い目を擦りながら粘ったが天ヶ崎くんを見つけることはできなかった。

今日も寝る時間が遅くなっちゃうなあ、と憂鬱に考えつつ自宅の最寄り駅で下車した。夜空には星が煌々と輝いて……いなかったが、代わりに月が不気味なまでに明るく光っていた。

改札を抜けたところにあるベンチでサラリーマン風の男が項垂れるように眠っていた。まだ週末でもないのに呑気なことだ。酒は飲んでも飲まれるなとはよく言ったものだ。サラリーマンよ、もう少し自制心を持ちたまえ。

心の中で偉そうな講釈を垂れてベンチの横を通り過ぎた。履いているヒールがこつこつと音を立てる。

帰宅は何時になるかなと思って携帯電話の時計を確認しようとしたがボタンを押しても画面は暗いままだった。昼休みの時点で電池が切れかけていたことを思い出す。残念ながら携帯電話はマイ・スイート・ホームに到着する前に力尽きてしまったらしい。可哀想なことだ。私が責任を持って自宅に送り届け、充電器に接続してやらねば。

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