とは言ったものの、携帯電話への連絡が不可能となると他の連絡手段は何も持っていなかった。こんなことなら名刺くらい交換しておくんだったと今更公開する。そこに書かれているであろう会社の番号に電話できる勇気が私にあるかどうかは別として。

しかし、家の住所も知らないし共通の友人も居ない、高校時代のクラスメイトに連絡したらあるいは、と思ったが私からの連絡を断ちたがっている(かもしれない)彼が素直に応じるとも思えないし何よりまず彼の連絡先を知っていそうな同級生の連絡先を知らない。一番いいのは、どこかでばったり会って手をがっしりとまえること。

あれこれ思案しながら帰りの電車に乗るための改札を通る。そして数歩進んだところで、突然ひらめいた。

この駅。この駅でなら彼に会える可能性があるかもしれない。再会したときと貧血で倒れそうになったところを助けてもらったとき、合わせて二度もこの駅から同じ電車に乗っている。営業で回っていたと最初に言っていたから、もしかすると取引先の会社が近くにある、とか。そんな都合のいいことがあるのかもしれない。可能性はきっと、ゼロではない。ゼロでないのなら、私はそれに賭けてみようと思った。


ホームの、一番人通りの多いエスカレーター近くの壁際に立って、上ってくる大量の人間を眺めた。つまらなそうな顔をした大人たちが日々のサイクルをまっとうすべく動いている。到着した電車は人間を吐き出しては飲み込み、吐き出しては飲み込み、を繰り返していた。見ているだけで人酔いしそうだ。

人々の中に天ヶ崎くんの姿はない。ホームに上がってこれる場所はここだけではないし、歩いている人の顔をすべて把握できるわけでもないのだから当たり前だ。第一に、天ヶ崎くんがこの駅を利用するのことがまだあるのかどうかもわからないのだから。すぐに見つけられるとは思っていないが、永遠に探し続けることもできないだろうと思っていた。一定の期間に見つけられなければ諦めるしかないだろうということも。


終電近くまで粘ったが天ヶ崎くんの姿を見ることはなく、人がまばらになった電車へ乗り込んでその日は岐路に着いた。

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