「必要なときに、必要なものが自動的に出てきてくれればいいのになあ」私は言った。

「そう思わない? 普段の生活でもさ、ペンが欲しいときにペンが、お腹が空いたときにおにぎりが、鞄の中からすっと出てきたら、きっとすごく便利だよ」

某ネコ型ロボットの道具にそんなものがあったような、と頭の隅で考えながら私は生産性のない話を振った。天ヶ崎くんは腕を組むようにして両肘をテーブルの上に付き、口に弧を描いたまま「そうかなあ」と否定的に答えた。


「でもそれって自分で答えを見つけられないじゃない。おれは、今の自分が必要としているものが何かって、考えるのが楽しいときもあるからなあ」

鞄に全部答えられちゃ味気ないよ。そう言って彼はワイングラスを持ち上げた。

なるほどそういう考え方もあるなと私は感心した。楽をすることが必ずしもいいこととは限らないものな。彼の言うとおりだ。


「あ、そうだ皆川さん、例の涙の発作はどうなったの?」

天ヶ崎くんが思い出したように話題を変えた。答えようとして私は記憶を辿る。あれ?


「……そういえば、ここ数日起きてない」

天ヶ崎くんに電車で助けてもらった日の前日に起きて以来、数日発作が起きていない。こんなに日にちが空くのは発作が始まってから初めてのことだった。断言はできないがもしかしたら治ったのかもしれない。


「そうなんだ、よかったね。結局、何が原因だったかわかった?」

彼が訊くが、私は首を振って正直に「わかんない」と答えた。


「最近仕事が忙しくて気を張ってたから少し疲れてたのかも。でもきっともう治ったわ」

「そっか。でもあまり無理はしないほうがいいよ。皆川さん自身が気付いていなくても、何かしらの異変を体が知らせようとしているのかもしれないし」

天ヶ崎くんは私の瞳を覗き込むようにして言った。まっすぐな目だな、と思った。


「そうだね、気を付ける。心配してくれてありがとう」

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