後日にメールで天ヶ崎くんに何が食べたいかを訊いたところ「ワインが飲みたい」とのことだったので、私は情報通の友人におすすめのお店を教えてもらって予約をした。本場フランスで修行したシェフの創作料理がどれも絶品とのことだった。


店に着いたとき天ヶ崎くんは少しばつの悪そうな顔を見せた。


「ごめん、おれがワイン飲みたいなんて言ったからだね。半分出すから」

確かに店は予想以上に高級な雰囲気で、普段こういう場所に縁のない私は少し気後れしていた。しかしインターネットで下調べして予算はきちんと計算していたし、何より天ヶ崎くんへのお礼なのだからこんなところで変に節約したくなかった。

私はにっこりして言葉を返す。


「いーえ。天ヶ崎くんはお財布を出さないでください。これはあなたへのお礼なんだから」

店に入り、事前に注文しておいたコース料理をもそもそと食べながら、私達は話をした。


「まだダンボールが全部開いてなくてさ、何がどこにあるのかもうさっぱり。ちゃんと分けて入れたはずなのに」

ローストビーフをフォークで刺しながら彼は言った。「必要なものが行方不明。ネクタイが一箇所に留まってなかったり」


「どれをどこに入れたのかすっかり忘れちゃうんだよね、私もやった。私なんてテレビのリモコンが行方不明になってすごく焦ったよ。結果、下着を入れた箱に一緒に入ってた」

「え? なんでそんなとこに入れたの?」

天ヶ崎くんが可笑しそうに笑う。


「下着だったらすぐ必要になるから最初に荷解きするだろうって、思ったの。でも引越ししたらそんなこと忘れるくらいにてんやわんやで、一人で大騒ぎしちゃった。部屋の中がぐちゃぐちゃになったわ」

今思い返してみても自分の間抜けさにうんざりした。私はワインを一口飲んでから言葉を続ける。


「必要なものは、ちゃんとわかるように仕舞っておかないとだめね。明日の自分をまるっきり信頼すると時には痛い目に遭うって、学んだわ」

天ヶ崎くんはくすくす笑って「そうだね」と言った。

[ 11/28 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]


novel/picture/photo
top



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -