目が覚めた。よく晴れた気持ちの良い土曜日の朝だ。私は上半身だけを起こして、見ていた夢の内容を思い出し、「なんでやねん……」と、関西人でもないのにそう突っ込んだ。

どうして今さら昔の恋人の夢なんか見たのだろう。確かに天ヶ崎くんに会って記憶が刺激されたということは多分にあるけれど、でもわざわざあのシーンが出てきたのは何故なのだろう。私が未練を残しているといことなのだろうか。彼に? それとも、天ヶ崎くんに?

ああいやだいやだ。他人を天秤にかけることなどしたくない。傲慢すぎる。

私はすっかり起き上がって熱いシャワーを浴びた。うだうだ混ざっていた思考が洗い流されていく気がする。さっぱり。

髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、テーブルの上には昨夜と変わらない状態の小瓶が置かれていた。私の目から流れ出た、透明な液体。


『お前がこれからもその目を大切に持ち続ければ、いつかまた仲良くできる日がくると思う』

奇しくも彼の言葉は、正しかったわけだ。私は天ヶ崎くんと再会した。穏やかな気持ちで、話ができた。つまり私はこの目を、彼が褒めてくれたまっすぐな目を、持ち続けているということなのだろうか。だから天ヶ崎くんと良い関係が築けたのだと。


「……本当に?」

高校の、あの頃に比べれば私の心は随分と変わったように思える。たくさんのことを知り、たくさんのひとと交わり、汚い感情も覚えた。まっすぐな汚れのない目なんて持っていない。そんなものを持って、どうやって金を稼ぎ飯を食っていくというのだ。邪魔なだけ、自分がとことん苦しくなるだけだ。

ぽろ、と涙がこぼれた。発作の涙じゃない、本物のそれだ。なんだかとても悲しい。私は、つまらない大人になってしまった。

私はきっと夢ばかり見ていたのだ。甘ったるい砂糖菓子のような夢を。だから彼の言う「まっすぐな目」も持っていられたし、理想だって語れた。ひとをすきになれた。

だけれど、ああ。こうやってひとは成長していくものなのだろうか。地に足を付けるというのは、とても堅実で、懸命で、正しく、そして何かを手放すように、物悲しいものなのだなあ。

私は髪の毛を拭いていたタオルで乱暴に涙を拭った。これは本物の涙だから、瓶には入れない。残さない、こんな気持ちは。

拭った涙の色を見たわけではない。だけれど私にはそれが、薄茶の濁った色に思えた。

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