「前は家にひとりで居るときだけだったのに、最近はずっとこんな調子。あんまり涙が出て面白いから、ほら見て」
私はポケットから小瓶を取り出した。透明な液体が瓶の四分の一くらいまで入っている。
「なに?」
私の手から小瓶を受け取って彼がまじまじと見つめる。
「わたしのなみだ」
「は?」
彼が顔を上げて私を見る。目がまんまる。
「溜めてみてるの。どのくらい涙が出てるのか気になって」
彼の手から瓶を取り上げて言った。
「溜めてどうするの?」
彼が訊く。引いてる引いてる。そりゃそうだ。
「んー。そこまでは考えてない」
私はジョッキをぐいと傾けて中に残っていたビールを一息に飲み干した。少し気の抜けたビールは喉をすとんと抜けて素直に胃に収まる。
「不思議なことするね、皆川さん」
馬鹿にしたようにではなく、どちらかというと感嘆の意がこもった声色で彼が言った。そして続ける。
「でもそういうところがすきだったんだよな。なんか思い出した」
つくね串を齧っていた私の手が止まる。
「皆川さんはさ、自分の世界に生きて見えたんだよ。誰の意見にも左右されない、自分だけの世界に。そういうところがおれにはすごく輝いて見えて、つよいひとだなって思った」
憧れてた。最後にそう付け加えて、彼はようやく口を閉じた。それからガッとジョッキを手に取ると先程の私と同じように残りのビールを一気に飲み干した。私はつくね串を口に咥えたまま。
「ごめん変なこと言った。おれ結構酔ってるみたいだ。あの、気にしないで」
「わ、わかった」
高校時代に告白されたときだって、今みたいな話は聞かなかった、と、思う。彼が私をそんな風に思っていたなんて。
『つよいひとだなって』
つくねを串から引き抜いて、もぐもぐと口を動かす。彼の言葉が、わりと、印象的だった。そして少し、嬉しかった。
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