紺色のスカートに付いた埃をぱっと掃う。
「そうか、ミキちゃんが女子大生になるのか。モテるだろうね」
「え、何言ってんの、そんなことないと思うよ……。現にモテたことなど一度もない……」
 乙女に何言わすんじゃこの男。自分で言っておいて悲しくなってきた。
「今は女子校でしょ。大学行ったら多分相当モテるよ、そんな気がする」
 大地が心配するだろうな、と小さな声で言う。兄のことだ。私が心配してもらいたいのはあんただっつーの。
 私は彼に聞こえないような小さな溜息を零してから聞き返した。
「サトくんはモテたりしないの」
 私は意地悪な質問をした。
「モテないよ」
 即答。期待した通りの答え。この答えを聞きたいがためにした質問なのだ。彼は続ける。
「そもそもあんま人に好かれる性質じゃない、理屈っぽいらしいし」
 確かに。というか自覚してたんだ。びっくり。
「それお兄ちゃんに言われたの?」
「うん。お前はいつも理屈っぽい、これだから頭の良い奴は嫌いだって」
「ご、ごめん……バカな兄で……」
 なんて幼い発言をするんだバカ兄貴。まったく。
「いや別に、ミキちゃんが謝ることじゃないから」
 不意に頬を緩めて笑う。胸がきゅう、と音を立てた。
「……私は好きだけどなあ。サトくんの理屈っぽいところも」
 それ以外も、ぜんぶ。
 てく。てく。てく。三歩歩いたところで私は立ち止まって振り返った。彼が隣に居なかったからだ。
「どうしたの?」
 彼は三歩前の場所で立ち尽くしている。地面をじっと見つめたまま動かない。ふと風が強く吹いて私の視界を長い髪の毛が遮った。鞄を持っているのとは逆の手でそれを押さえつける。
「サトくん?」
 名前を呼ぶと彼は顔を上げた。夕焼けに照らされて彼の頬が仄かに赤く染まっている。薄く固そうな唇がゆっくりと開かれる。
「……言わなきゃいけないことがある」
「なに?」
「本当はもっと早く言わなきゃいけなかったんだけど」
 なんだろう。彼の視線が痛い。ぴりぴりと張り詰めたような、居心地の悪い雰囲気だ。
「おれ気付いてたんだ。ミキちゃんがおれに──」
「わ、私! 今日お母さんにおつかい頼まれてたの忘れてた、ごめん、もう行くね」
 悪い予感を察知して、私は反射的にその場から逃げた。小走りだからという理由では説明しきれないほどに心臓が痛い。喉の奥がツンとする。彼は今──
(今、なに言おうとしてた……?)


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