アメさんが何を言ったか理解したらしいブンちゃんが答えた。アメさんはもう一度満足そうに「んなぁ」と鳴いた。
アメさんの朝ごはんを用意してからゆっくりと身支度を済ませ、ブンちゃんは空色のワンピースを身にまとって家を出た。足元には鈴付きの赤い首輪を付けたアメさんも一緒だ。
「今日も素敵な一日になるといいですね、アメさん」
アメさんは大きく口を開けて欠伸しただけだった。
ブンちゃんは空を見上げた。ブンちゃんのワンピースの襟みたいな小さな雲がぽかりぽかりと浮いている。ブンちゃんと空はおそろいのワンピースを着ているみたいだった。
てくてくと歩き始めてすぐに、アメさんが道を逸れた。ブンちゃんは慌てもせずに声をかける。
「アメさん、今日はどちらに?」
その声に首だけ振り返ったアメさんが「なぁー」と答えると、ブンちゃんはにっこりして頷いた。
「わかりました。気を付けてくださいね。夕方には私も帰っていますから」
再び「んなー」と返事をして、アメさんは、ててて…、と歩いていった。
一人になってもブンちゃんのお散歩は続く。てくてくと両手を振って歩いていると、前方からつんつん頭のスーツ姿の男のひとが近づいてきた。
「スドーさん、おはようございます」
ブンちゃんがにこやかに挨拶をする。スドーさんもブンちゃんに気付いてにっこりした。
「やあブンちゃん、おはよう。今日もお散歩かい?」
肩をぎこちなくふるふるさせながらスドーさんが聞いた。
「はい、私はお散歩が大好きですから。スドーさんはお仕事ですか?」
「そりゃあそうだよ。僕はサラリーマン。サラリーのために身を尽くすのが仕事なのさ」
「スドーさんはサラリーが好きなのですか?」
口を開くたびに広くなったり狭くなったりするスドーさんの不思議なおでこを見つめながらブンちゃんが聞く。
「好きとかじゃなくて必要なのさ。僕には家族だっているからね」
「好きではないことをしているのですか?」
その問いには答えずに、スドーさんは肩をぎこちなくふるふるさせて少し笑った。
「守りたいひとができたら、ブンちゃんにもきっとわかるよ。それじゃあまたね」
ブンちゃんの脇を通り過ぎてスドーさんは歩いていった。スドーさんの後ろ姿を見送って、ブンちゃんは首を傾げた。
「守りたいひとができたら、好きではないこともしなくてはいけないのでしょうか」
ブンちゃんの守りたいひと(猫)はアメさんだ。アメさんのことは守りたいけれど、ブンちゃんは変わらず好きなことだけをしている。
ブンちゃんはよくわからなくなって、首を傾げたままお散歩を再開した。
「よおブンちゃん、おはよう!」
大きな声にブンちゃんは飛び上がった。振り向いて見ると、頭にハチマキを巻き付けたお魚屋さんが大きく手を振ってにこにこしている。
「ああ、お魚屋さん。おはようございます」


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