「っ、………イルミ、ちょっと先に行って。」
「え?」

珍しくイルミから「仕事を手伝ってほしい」と依頼を受けた。乗り気がしなかった私は「ヒソカに頼めばいいじゃない。」と言ったのだけれど「ヒソカ今いないんだよ。ほら、つべこべ言わず行くよ。」と、半ば強引に連行されたのだ。
仕事自体は簡単なものだった。けれどいかんせん建物の構造が複雑でイルミがヘルプを出したのも理解できる。それ以外をとれば特段強い相手ということもなくサクサクっと仕事は終え、二人で帰路についていた時だった。
下腹部にずくりとした感触。同時に訪れる不快感。ああ、結構出たな。そう、月一のものだ。しかも二日目。だから私、今日は乗り気がしなかったのに。ずぅんと重く響くそこに手を当て冒頭へと戻る。

「なに?まさかあんなのにやられた訳じゃないよね?」
「違うわよ。いいから先に行って。」

今すぐにでも蹲りたい気持ちをなんとか奮い立たせ気丈に振舞っているのに、目の前の男はやんややんやと問い詰めてくる。

「違うんなら何?俺と一緒に戻れない訳でもあるの?」
「別にそんなんじゃないから。いいから先戻っ、…っぅ」
「!」

突然訪れた重い痛みに顔を顰め蹲った瞬間、気怠げなイルミの目が少し見開かれたのが視界に映る。ああ、もう最悪。

「はぁ。やっぱりやられたんだろ。あんな奴にやられるなんて怠けすぎなんじゃないの?」

ツカツカと私の元に歩み寄り、お腹に添えていた私の手をグッと引くと「あれ?」という言葉と共にイルミはこてんと首を傾げた。

「怪我、してないね。」
「いいから放し」
「あ、もしかして生理?」

あっけらかんと吐かれた言葉は正解で、如何にも「当たりでしょ?」と言いたげな顔に「本当、デリカシーないよね」と言いたいのをぐっと堪え「そうよ」と返した。

「なんだ、それならそうと早く言ってよ。大体、今だったからよかったけど、もしこれが仕事中だったらどうするの?リスクのある奴に頼んで失敗なんかされたら元も子もないよね?」

私の話なんて聞かずに引き摺っていったくせに、と心の中で悪態を吐く。大体、今日は生理が酷いから、なんて男の人に言えないわよ。

「生理痛ぐらいでへこたれるなんて鍛え方が足りないんじゃない?うちだったら拷問部屋行きだよ。」
「……イルミは、男の子じゃない。生理痛の痛み、知らないでしょ。」
「知らないよ。」

きっぱりと言い切るイルミにむしゃくしゃして、ついでに言うと涙腺まで緩んできてしまって兎にも角にも早く一人になりたかった。

「もういいっ、わかったわよ!今回の報酬はイルミに心配かけたからいらない!迷惑かけるからイルミの仕事は今後一切引き受けない!これでいいでしょ!?」

ばっ、と私の腕を掴んでいたイルミの手を振り払い顔を隠すように蹲る。お金にうるさいイルミのことだから、きっとラッキーくらいに思ってるはずだ。

私だって分かってる。イルミの言ってることは正しい。今日みたいな弱い相手だったからよかったものの、もし一分の余裕もない相手と戦っている時に蹲る余裕なんてあるわけがない。イルミの言っていることが分かるからこそむしゃくしゃするのだ。そう、これは完璧な八つ当たりだ。

「はぁ」とイルミの大きな溜息が聞こえる。その溜息一つに傷付いている自分が嫌で、さっさと帰ってしまえ、と心の中で何度も唱えていると、突然ぶわっと身体が引っ張られた。

「は?ちょっ、何して、」

私の視界のすぐ先にはイルミの顔があり、何事かと混乱する私を他所に、イルミは私のお腹をゆったりと撫でながら「いたいのいたいのとんでいけー」とあの抑揚のない声で呟いたのだ。

「え」
「あれ、違ったかな?」
「何、してるの」
「痛くなくなるおまじない。昔キルがやってたんだけど違ったかな。」

成人済みの、あの暗殺一家の長男が、いたいのいたいのとんでいけって、しかもおまじないって。イルミには似ても似つかないその行動に、ふっと笑い声が漏れる。

「あ、笑った。」
「だって、イルミがおかしいんだもん。」
「そう?まぁいいから早く帰ろうよ。」
「……そうだね。」

なんだかどうでもよくなってしまった私は、そのままイルミに横抱きにされ再び帰路についたのだった。

「あ、そうだ。生理周期教えてよ。そしたら被らないように依頼できるだろ?」
「やっぱりデリカシーないっ!」



デリカシーに欠けるイルミ
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