「くしゅんっ!」

私の彼氏は凄く過保護だ。

「ちょっと、風邪?やめてよね。俺にうつさないでよ。」

口ではとても辛辣だけれど行動は全くの逆で、彼はすぐさまブランケットを手に取り、私を包み込むよう座り込んで鼻セレブを1枚私の鼻へ近付け「ほら」と言った。

「……イルミ、私、鼻くらい自分でかめるよ?」
「何言ってるの。俺がいつもやってあげてるんだから、できるわけないだろ。」

これだけぴしゃりと言い切られては反論する気も失せてしまう。
元来、面倒臭がりな私は口論するのが苦手だし、そんなことするくらいなら大抵の事は「うん、そうだね」と認めてしまう。

だけど彼と付き合う前は普通に自分で鼻をかんでいたし、大体、社会人にもなって鼻をかめない女なんているのだろうか。
私は出もしない鼻をかみながらぼやっと考える。

彼はというと「本当、名前は自分の体調管理ができてないよね。俺は完璧に自分の体調管理してるのに、名前からうつったら元も子もないだろ。」と抑揚の無い声でぶつぶつ言いながらも、片手で私の鼻をかませ、もう片方の手で私の膝へブランケットをかけた後、私のおでこと彼のおでこを行ったり来たりと忙しなく動いている。

「ちょっと熱いかもしれない。」
「熱なんてないよ。それにちょっとくしゃみしただけだから鼻も出ないよ。」

くしゃみ1つでこれだけつくしてくれる彼は、暗殺業なんかより看護師や介護士の方がよっぽど向いているんじゃないだろうかと時々本気でそう思う。

「いいから、今日は早く寝て。俺も一緒に寝てあげるから。」
「え、でも、もし万が一でも風邪だったらうつっちゃうかもしれないよ?」
「俺がそんな簡単に風邪なんかひくわけないだろ。」

彼の凄いところは自分の言ったことを簡単に覆すところだ。しかも覆された言葉は今となってはきっと1mmたりとも覚えていない。

「これでもし、夜中に名前が高熱で死にかけたとしても安心だね。」
「まぁ、そうだね。(絶対にないと思うけど)」
「俺に感謝しなよ?」

私をベッドへと強制連行した彼も、ピッタリと私に張り付くように横になり、ぽんぽんと私のお腹を一定のリズムで叩いている。
元々寝る時間でもあったので、瞼は自然と閉じていき、ハッキリとしない頭で「こうやってなんだかんだ言ってうちに泊まるようになって何日目だろう」と考えた。
仕事で疲れているだろうに、毎日うちに寄っては甲斐甲斐しく私のお世話をして。自分の家にいた方がよっぽど休まるんじゃないだろうか。(だってイルミの家は執事がなんでもしてくれるらしいから。)

「イルミ」
「なに?早く寝なよ。」
「いつも、ありがとう。」

その言葉に、少しだけ目を見開き雰囲気が柔らかくなった彼の顔は、瞼が重たすぎて見ることはできなかった。



過保護なイルミ
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