「早く入ったらどうなんです。」

悠々と湯船に浸る彼に急かされた私は、普段とも、お風呂上がりとも違う彼の姿に、只々心臓を高鳴らせていた。

初めて一緒に入るわけではないけれど、見慣れぬその姿にどうにも戸惑ってしまう。
しかしいつまでもそうしているわけにもいかず、意を決したように私はそろりと片足を湯船へ浸した。波紋に遅れ足を進めれば、暖かいお湯が片足を包む。
もう片方も湯船へと浸せば、水位は彼の脇まで上がっていた。
彼の様子をちらりと盗み見るとそっぽを向いていたが、その彼のなんと色っぽいことか。
色気に当てられた私はすぐさま顔を伏せ、ゆらめく水面を一心に見つめた。

溢れてしまう、そう思いつつゆっくり腰を下ろしていくと、バスタブのヘリにじわりとお湯が滲み、ちろちろと音を立て外壁を伝ったお湯は、肩まで浸かる頃にはザバリと音を立て溢れ返っていた。
その様子を、温かさに緩んだ顔で眺めていると「タオル、マナー違反ですよ。」と向かいから。

「お家だし、それに、恥ずかしいし、」
「何を今更、」

呆れた顔でタオルを剥ぎ取られた私は、追いかけるように腕を伸ばすけれど、その甲斐虚しくタオルはバスタブの外へべしゃりと舞い落ちた。
そんな行方を失った私の腕を彼はグイと引き「大体なんでこんなに離れてるんです。」と腕の中へ閉じ込められた。
密着する肌に、ハッキリと感じる彼の体躯に、私の体は硬直する。

「くっつくの、嫌ですか?」

そう囁く彼にふるふると首を横に振る。

「嫌じゃ、ない。けど、恥ずかしい。」

両手で顔を覆いながら、私は今にも爆発してしまうんじゃないかと思うくらいドクドクとうるさい自分の心音を感じていた。

「建人は、ドキドキしないの?」
「しますよ。しないわけ、ないじゃないですか。」

腹部に回されていた腕にぎゅっと力がこもり、近かった彼との距離がもっと近くなる。

「でも、だからこそ、貴女を愛でたくてたまらない。」

囁かれたその言葉におずおずと振り向けば、彼の熱い眼差しとぶつかり、私達はそのまま、どちらからともなく唇を重ねた。
湯船に浸って数分、もうのぼせてしまうんじゃないかと思うほど、私の体は熱く、火照っていた。



七海とお風呂
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