スカートをタイトにするかフレアにするか、悩みに悩んだ挙句「メイクしながら考えよう!」と、はしたなくも下半身はタイツのまま洗面台の前でメイクを始めた。
しながら、とは言ったものの、いざメイクを始めれば流した音楽を口ずさみ、スカートのことなどすっかり頭から消えていた。

「なんて格好してるんですか。」

のそりと現れた建人さんに鏡越しに視線を向ける。眉間には薄らと皺が寄っていた。

「おは……重っ」

だらりと背後からのしかかられ、思わず洗面台の縁に手をかける。
昨日は帰りが遅かったから、きっとまだ眠いのだ。

「起こしちゃった?」
「いえ。それより、なんて格好してるんです。」

タイツの上からむに、と私のお尻を摘む建人さん。
スカートどれにするか迷っちゃって、と言うと、はぁ、と耳元で盛大に溜息を吐かれ「はしたないですよ。」と言われた。
はーい、と間延びした返事をしメイクを再開しようとするも、大の男にのしかかられたままではやりにくい事この上ない。

「あの〜、メイクできないんですけど。」
「………どこに行くんですか。」
「お買い物行こうかなって。」
「今日は、もう行かなくていいんじゃないですか。」

私の肩に顔を埋め腰にギュッと手を回す建人さん。いつもと違う甘えたな彼に「珍しい」と思いつつ、なんだか可愛く思えた私は、お出かけは今度でいっか、とメイクブラシを放棄した。

「行かない代わりに、今日一日私にかまってくれますか。」

お腹に巻き付く腕にするりと自分の腕を這わせ、スリ、と首を動かせば、建人さんのシャンプーの香りが鼻をくすぐる。

「ええ、もちろん。」と顔を上げた建人さんの眉間はいつの間にか平らになっていて、近付くその優しげな目にゆっくりと目を閉じた。



甘える七海
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