「カリム、寝てないか?」
「カリムの腹が鳴る頃だ。」
「カリムに教えておかないと。」
いつもいつも、口を開けばカリムカリム。
多分、いや確実に私の名前よりもカリムの方が呼ばれている。
分かってはいるのだ。ジャミルは従者なのだから仕方ない、それが当たり前だと。でも、分かっていても面白くないものは面白くない。
悶々と頭の中で考えながら歩いていたのがいけなかったのか、私は角から出てきた影に気付かずそのまま衝突した。
「痛っ……、ごめんなさい。」
慌てて顔を上げると、なんとまぁバッドタイミング。
「ああ、名前か。丁度よかった。」
ぶつかった相手はジャミルだった。
一気に悶々とした感情に再度取り憑かれた私はジャミルの話を遮り「私、急いでるから」と、自分でも驚くほど感じ悪く言い放ち、ジャミルの横を通り抜けた。ああ、やってしまった…。
「待て。」
通り抜けた瞬間、私の腕をぐっと痛いほど掴まれる。
「もう授業は終わったはずだ。お前は部活にも入っていない。何をそんな急ぐ必要がある?」
「別に、私にだって用事くらい、」
「ほう?俺の把握していない用事があるのか?」
まさに蛇に睨まれたカエル状態である。
穴が開くんじゃないか、というくらいこちらを見つめるジャミルに私は視線を彷徨わせ、冷や汗がダラダラと止まらない。
それでも、そんな状態でも、やっぱり思うところはあるのだ。
「わ、私の予定なんて把握しなくても、カリムの予定だけ把握してればいいじゃない。」
ピクリと、私の腕を掴むジャミルの手が反応した。
暫く無言が続いた後、頭上からはぁ、と大きな溜め息が聞こえる。
「何をそんなに怒っている?」
「怒ってない。」
「怒っていない奴は眉間に皺は寄らないと思うが?」
ジャミルの言葉にはっとし、掴まれていないもう片方の手で眉間を押さえる。
ぐりぐりと自分の気持ちを落ち着けるかのように眉間を押さえながら考えた。
別に、分かってたことじゃないか。
ジャミルは私と付き合う前からカリムの従者だったし、カリムに付きっきりだった。
そんなの分かってたことじゃないか。
「カリムに、やきもち妬いたの。」
「はぁ?」
ジャミルは「何を言ってるんだ」とでも言いたげな顔をしていた。
「毎日沢山ジャミルに名前を呼んでもらえるカリムが羨ましくて嫉妬した。ジャミルはカリムの従者なんだからしょうがないって分かってても羨ましかった。」
言いながら「なんて幼稚なんだろう」と恥ずかしくなったが、でもこれが本心なのだ。
「はぁ〜〜〜〜〜」
先程よりも盛大な、大袈裟と言っていい程の溜め息が聞こえ、ぎゅっと抱き締められた。ずしりとジャミルの重みが身体に広がる。
「嫌われたのかと思った。」
ぼそりと耳元で呟かれたジャミルの言葉にはっとする。
私、ちゃんと愛されてるじゃないか。
「名前を呼んでほしいんだったな?」
「え?」
「いくらでも呼んでやる。」
名前、と耳元で名前を呼ばれぞわりと背中が震えた。
「呼んでほしいと言ったのはお前だからな。」
ニヤリと笑うジャミルに見惚れた私は、その後何度も耳元で私の名前を呼ぶジャミルに、ぐずぐずにされてしまったのだった。
嫉妬するジャミルの彼女