薄暗いバーの一角。
黒い長髪の男と赤毛で奇抜な髪型をした男が、二人してカウンターのスツールに腰掛け足を組んでいる姿は、端から見ればなんとも異様な光景だろう。

「返事がこない。」

二人で来ているというのに、随分と長い時間、携帯を睨み付けていたイルミがふと言葉を洩らした。

「返事?」
「朝から返事がないんだよね。もう50通くらい送ってるし電話もかけてるんだけどさ、全然応答なし。俺がさ、こんだけ連絡とってやってるのに返事の一つもよこさないって何様のつもりなんだろうね。大体さ」

イルミがこうやって流暢に喋る時は決まって機嫌の悪い時だ。

「返事って、名前ちゃん?」
「それ以外に誰がいるっていうのさ。」

たしかに、イルミが連絡をとる相手なんてたかが知れている。

「そんなに心配なら会いに行けばいいんじゃない。」
「は?別に心配なんてしてないけど。」
「誰か、君以外の男といるのかもしれないよ?」
「………………は?」

イルミのオーラが一瞬にしてドス黒いものへと変化したのが肌にビリビリと伝わってくる。

「今、なんて言ったの、ヒソカ。」
「ははっ、冗談だよ。」

イルミは表情は乏しいけれど、感情のポイントは意外とハッキリしている。
そのためついついからかってしまうのは僕の悪い癖。

「酒が不味くなった。帰る。」

スクッと背の高いスツールから腰を上げたイルミは黒い長髪を靡かせながらスタスタと入り口へと歩を進め、僕の「またね」という言葉と共に扉はカランと音を立て閉じた。





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ヒソカが言ったことを間に受けたわけじゃない。
ただ、返事一つ寄越さない名前に文句の一つでも言ってやらないと気が済まないから、こうして名前の家に来ただけだ。

名前の住んでいる6階のベランダへするりと上がり窓の鍵を開ける。
「オートロックだし、防犯カメラも付いてるから安全」なんて名前は言ってたけど、こんな1秒で開けれるような鍵でなにが安全なんだか。

そんなことを考えながらリビングへ上がると、そこは明かり一つ付いておらずシンとしていた。
暗い部屋の中、チカチカと光るソファへ目をやると、そこには投げ出された鞄と不在着信ランプが点滅する携帯。
その光を見ていると、数時間前の自分が思い出され思わず目を反らす。
そんな思いを掻き消すよう足早に寝室へ向かいそっと扉を開くと、そこもリビング同様暗く静かだった。

部屋の大半を占拠するベッドに近付くと、そこには布団をぐるぐると身体に巻き付け眠る名前がいた。
その姿にホッと一息つき、そっと顔を覗き込むと、眠っているようだけど、普段よりも呼吸は浅く、表情は苦しげに歪んでいた。
その表情に思わず手を伸ばし触れると、うっすらと名前の目が開いた。

「イル、ミ?」
「うん」
「どうして」

俺がここにいることに驚いてるみたいだ。

「連絡、何回もしたのに返事ないから」
「ごめん…、気付かなかった。」
「具合、悪いの?」
「ちょっと、風邪ひいちゃったみたい。」
「ふーん。」

笑ってはいるけど、いつもより覇気のない笑顔。
さっきまで、文句の一つでも言ってやろうと意気込んでいたのに、名前の弱った表情を見ているとそんな考えは綺麗さっぱりどこかへ行ってしまった。

「イルミ、風邪うつるといけないから、今日は帰って。」
「俺が風邪なんてひくわけないでしょ。」
「え?」
「風邪なんて小さい時に一度ひいたきりだよ。まぁ、新しい毒の耐性つける時はちょっと気分悪くなったりするけどね。」
「そっか。イルミは強いね。」
「名前が弱すぎるんだよ。」

ごめんね、と力なく笑う名前の前髪をゆっくりと掻き上げ、頬を撫でる。
撫でた頬はいつもより熱を帯びていて、とても熱かった。

「キツい?」
「大丈夫」
「……嘘つき。」
「ふふ、イルミの手、冷たくて気持ちいい。」

俺の手に自分の手を重ね頬と手の熱を分散させる名前はあまりに弱々しい。

「具合悪いのに、なんですぐ呼んでくれなかったの。」
「だって、イルミ仕事中だったでしょ?」
「そうだけど。連絡くれれば終わってすぐ来たのに。」
「そんな連絡できないよ。」
「どうして?」
「心配かけて、ミスなんかしたら大事でしょ?イルミの仕事は命に関わるのに。」
「ちょっと、俺がそんなヘマするように見えるの?」
「そうは思わないけど、万が一を考えて、ね。」
「そんなこと考えなくていいから。今度から風邪ひいたらすぐ連絡して。」

俺はそんなことを考えていた名前に怒っているのに、名前はふふっと笑って呑気に「ありがと」なんて言っている。

「絶対だよ。」
「うん。」

自分の手を俺の手に乗せたまま、名前はゆっくりと目を閉じ、暫くするとスースーと寝息が聞こえ始めた。
安定したその寝息に、起こさないようゆっくりと手を引き抜く。

「朝、名前が目覚めるまでこうしていよう」と名前の頭をゆっくりと撫で、じっと顔色の優れない名前を見つめる。

明日は午後から仕事が入っていた。
それまでに、こんな薄っぺらい防犯の家を引払い、うちに引っ越させた方がいいかもしれない。
朝までまだ時間はたっぷりある。
それまでに名前の寝顔を見ながら最善の策を講じよう。



イルミと一般人彼女
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