「狭い。」

不機嫌そうな声色に「ああ、きっと今あの綺麗な顔を歪めてるんだろう」と、バスタブの中で抱き竦められた私は後ろも振り向かず、立ち上る湯気のようにぼやっと考えた。

「だから言ったのに。」
「こんなに狭いなんて思いもしないよ。」

事の発端はイルミの一言だった。
うちに来たイルミが突如「名前、風呂に入ろう」と言い出したのだ。急にどうしたのかと聞くと「一緒に風呂に入らないと付き合ってることにならないらしいからね」と。
きっとヒソカあたりにからかわれたのだろう。イルミは真面目なのですぐ真に受けるのだ。

「でもうちのお風呂狭いよ?」
「大丈夫だよ。」

イルミは一度言い出すと何を言っても自分の意見を曲げない。それを分かっている私は早々に反論するのを諦めた。
そんなこんなで冒頭へと戻るのだけど、安いワンルームのバスタブに広さを求められても困るわけで、だけどイルミはこんな狭いお風呂が世の中に存在するなんて1ミリ足りとも思わなかったのだろう。

「イルミの家が特別なだけで、世の中こんなお風呂ばっかりだよ。」
「ははっ、まさか。」

ほら、この通りだ。

「もう上がる?」
「なんで?入ったばっかじゃん。」
「でも、窮屈でしょ?」

そう問いかけるとイルミは黙り込んだ。
不思議に思った私は「イルミ?」と振り返ろうとするとギュッと強く抱き締められ振り返れない。

「…………まだいい。」

そう小さく返し私の首筋に顔を埋めるイルミ。狭いお風呂も少しは気に入ってくれたのかな、と思いイルミの頭へ擦り寄る。
「猫みたい」とお互いくすくす笑いながら手を絡め、そのままゆっくりと唇を重ねた。



イルミとお風呂
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