「何むくれてんの?」

情事後、いつもなら一静にぴたりとくっつく私がそっぽを向いて丸まっていたからだろう。ぐい、と覗き込んでくる一静を視界に入れないよう頭の下の枕をひたすらに見つめる。
口が立つ方でない私は、怒った時はだんまりを決め込むのが常だが、今までの経験上どうせ一静に口を割らされてしまうのだからと早々に口を開くことにした。

「……やだって言ったのに、」
「ん?」
「やだって言ったのに無理矢理した。」
「人聞き悪いね。気持ちよくなかった?」

気持ちよくなかったかと聞かれると、それはもう気持ちよかった。とてつもなく気持ちよかった。一静とのセックスはいつだってそうだ。
それでも素直に返答するのは癪に触るので、私はたっぷりと間を開け渋々返事した。

「……………気持ちよかった。」
「だよね?」
「〜っ、違うの、私はもっと可愛くしたいの!」

ぱっと顔を上げ声を張った私にか、はたまた言葉の意味についてか、一静はきょとんとした顔をしていたが、そんな一静には目もくれず今までの不満をぶつける。

「もっと可愛い私で抱かれたいのに、一静が、いつも激しくするから変な声出ちゃうし泣いちゃうし……、可愛くないとこばっか見られて嫌なの!」

私は、セックスとは緩やかに進み、愛し合い、穏やかに終わるものだと思っていた。
それがどうだ。一静とのセックスは毎回泣かされ涙で顔はぐちゃぐちゃになり、加えて、そんな状態での喘ぎ声は酷いもので、私の知っているものとは大いにかけ離れていた。
自分ではコントロールできない行為中の醜態に、私は嫌われてしまわないかいつも不安だった。「今日こそは理性を保てるラインで」と毎回強く思うのに結局は流され今に至っている。

「ぷっ」
「ちょっと、なんで笑うの?」

突然吹き出した一静に眉間に皺を寄せると「ごめんごめん」と一静は可笑しそうに私の頭をポンポンと撫でた。

「その可愛くっていうのは、飾ってるってことでしょ?名前の言う変な声っていうのが何も飾らない素の声なら、俺はそっちの方が断然聞きたいけどね。」

今度は私がきょとんとする番だった。
「あんな声聞きたいなんて、変なの」と思いつつも、次第に頬が緩んでくる。胸の奥のモヤモヤしたものも薄くなっていき、それに反する様に胸がきゅうっとなった。「なんて単純なんだ」と自分に呆れつつも私はホッとしていた。

「………あんな声聞いて、引かないの?」
「ははっ、寧ろ興奮する。」

それでも素直に引けない私は、軽く返答する一静に「変態」と辛辣な言葉を吐きながら、緩みきってるであろう顔のまま一静の背中へと腕を回す。
首元からより一層香る匂いにすり寄り、漸く心の底から一息ついたのだった。

「まぁ今更お上品に抱いたところで、満足できないと思うけど、ね。」



松川との情事後
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