「何してるの?」
放課後、忘れ物を取りに教室へ戻るとクラスメイトの苗字さんが一人机に向かって唸っていた。
「!?つ、月島くん!えっ、あれ、部活は?」
「忘れ物取りに来ただけ。で、何してるの?」
自分の質問を無視されたことにちょっとムッとしつつ再度質問を投げかける。
「いや、えっと、今日中に提出しないといけないものがあって……」
なんとも気まずそうに視線を彷徨わせながら答えているけど、何をしているかなんて本当は知っていた。
今日の授業中、テストの返却があった。その返却の際、クラスメイト全員の前で「こんな酷い点数をとってるのお前だけだぞ」と苗字さんは嫌みたらしい教師にねちねちと吊るし上げられていた。
ねちねちと罵る教師の前で、しょぼんと項垂れていた苗字さんの姿が今でも思い出せる。
「ねぇ、それって今日先生に言われてたやつでしょ?隣の席の奴に教えてもらって提出しろって言われてたじゃん。なんで隣の奴、いないの?」
「あ、えっと、佐藤くん部活してるから、時間とらせるの悪いし、頑張ればなんとかなるかなって!」
苗字さんの隣の奴が佐藤なんて名前なのも初めて知ったし、知ったところで顔は思い出せない。
「頑張ればなんとかなるって、頑張ってなんとかならなかった結果がこれでしょ?」
「う゛っ……、おっしゃる通りです。でも、私が部活行っていいよって言っちゃったし、頑張るよ!」
「はぁ……、本当苗字さん、要領悪いよね。」
ガタリ、と苗字さんの前の席の椅子を引きそこへ座ると、緊張したのか苗字さんの背筋がピシャリと伸びた。
「隣の奴じゃなくても正解してる答案借りて自分なりに考えるとかできたでしょ。分かんなかったとしても今日のところは提出できるんだし、また後から分かんないとこ聞きにいけばいいじゃん。」
「あ、そっか!なるほど!じゃぁ、今度からはそうするよ!やっぱり月島くんは頭がいいね。」
ぱぁっと表情を明るくし「そっか、そっか」と言っているけれど、一点気になることがある。
「今度からって、今日はどうするの?」
「今日はもうしょうがないから頑張って解くよ。」
はぁ!?
へへって笑ってるけど、本当にこの子バカなんじゃない?
「あのさぁ、僕に、貸してって言えばいいじゃん。」
「えっ!?か、貸してくれるの?」
「…………嫌だ。」
「えぇっ!?」
パァッと期待のこもった顔が一転、ガーンと音が付きそうな程ショックを受けた表情へと変わった。
「鞄、部室だし、取りに行くのめんどくさいから」
「そ、そうだよね。」
「だから、僕が教える。」
「えっ?」
「なに、僕じゃ不満?」
「い、いや!不満とかじゃなくて!あの!だって部活っ」
「うん、部活あるから、スパルタで教えるから。」
「お、お願いしますっ!」
人に教えたり、頼られたりするのってめんどくさくて嫌いだけど、苗字さんは見ていて飽きないから、別にいいかなって思った。
月島と居残りクラスメイト