白竜の真っ白な指によって、天馬の身体が少しずつ空気に触れていく。男にしてはよく伸びた爪が肌を僅かにかするだけでも、それは甘い疼きを引き起こして、天馬を悶えさせた。とうとう纏うものがなにもなくなった天馬を、白竜は掻き抱く。うなじの辺りに顔を埋めて、鼻をすりよせる。恥ずかしそうに身を捩る姿に疼いた犬歯を、躊躇いもなく肌に突き立てた。柔らかい首筋にずぶずぶと埋まっていく。気持ちよさと痛みの間でさ迷う、途切れ途切れの悲鳴が、白竜の支配欲を埋めていく。あいせる、と思った。これならきっとなんの問題もなく、疑いもなく、松風天馬をあいすることができると、白竜は確信していた。
鼻をすする天馬をシーツの海へと突き飛ばす。足をもつれさせて転ぶ小さな身体に覆い被さって、白竜は舌なめずりをする。早くめちゃくちゃにしてやりたかった。自分の下で快感に咽び泣く、あの表情をただひたすら求めていた。
俯く天馬の顎を掴む。そのまま唇を寄せて、あと数センチで触れあうというところで、ふたりの時間は止まった。
「やっぱりやめよう」
冷めた瞳をした天馬が呟いたその言葉を、白竜は理解できなかった。
「シュウは、おれにこんなにひどくしなかった、シュウの手はもっと優しかった、こんなのじゃない」
涙を流しながら自分を拒む天馬に、いとおしく懐かしい彼の姿が重なってはぶれる。熱の波が引いていくのがわかった。シュウはもうどこにもいない。天馬の愛したシュウも、白竜が愛したシュウも、どこにもいない。まして誰にもその代わりをつとめることなんて、初めから無理だった。天馬の涙を見つめながら、白竜は舐めあおうとした傷が余計に化膿して広がっていくのを、なすすべもなく好きにさせている。
「シュウに会いたい、会いたいよ、シュウ……」
泣きたいのはこっちのほうだ。シュウを思う行く宛のないこころがふたつ残されて、互いを認めあえずに、孤独の深みへと沈んでゆくばかりで。
music:僕たちの望みの喜びよ
title:ごめんねママ