カーテンの隙間から差し込む朝の光に照らされて、きみの白く波打つ髪はうつくしく輝きだす。それはうららかな眠りにまどろむぼくの目蓋の裏にまで真っ直ぐ届いて、おかげでいつもきみよりも早く眠りから叩き起こされる。きみのむき出しの腕の中から抜け出すのは手慣れたものだ。ひとの体温であたたまったシーツの海から、冷たいフローリングに足をついた。無造作に脱ぎ捨てられた服に下着にエトセトラ、昨日の夜が酷く情熱的だったことを思い出す。ぼくにすっかり吸いとられてしまった白竜は、すぐそばにあったぬくもりが消えてしまっても気が付かないくらい疲れきっているようだった。ふたりの残骸の中から適当に手にとったシャツを拝借して、ぼくはキッチンに向かった。冷蔵庫の中身は数本のペットボトルと調味料しか見当たらない。仕方なく『おれの』と少し角ばった字で書かれた炭酸飲料を取り出す。きみのものはぼくのもの。ぼくのものもきみのもの。本来は飲食を必要としないぼくだけど、意外とこれが楽しくて、身体の変化がないのを良いことに暇さえあればなにか口にしている。最近は特に喉がしゅわしゅわと鳴るこいつがお気に入りだ。キャップをまわして外して、現れたその飲み口へ唇をよせる。そういえばこれを最初に飲ませてくれたのは白竜だったなあ。ふたりで島を出ていったあの日から、白竜は外の世界について赤ん坊のように無知なぼくに、色んなことを教えてくれた。きみに与えてもらってばかりだけど、代わりにぼくだって持ってるものすべて捧げているんだからね。きみはちゃんとわかってる?しっかりしてるように見えて抜けてるところあるから、たまに不安になるよ。
後ろからぬっと伸びてきた手に、ペットボトルを奪い取られる。ああ!と声をあげて振り返ったぼくの頬が、きみの掌の低い温度に包まれた。
「……よかった、触れられる、ここにいるな、よかった……」
「やだ、どうしたんだよいきなり」
骨ばった白く大きな手の甲を寒さから守りたくて、ぼくはきみにこの手の体温を差し出す。きみの伏せた長い睫毛に、水滴がきらめいた。
「白竜、ねえ泣かないで、ぼくはちゃんとここにいるだろ、おれの腕の中がおまえの帰る場所だって、きみ言ったじゃないか、ねえ」
「……ああ、ああ」
それとも勝手にきみのコーラ飲んだから怒ってるのって訊いたら、もう喋るなって抱き締められた。はだけた首もとにかかるきみの吐息が、今にも消えてしまいそうに弱々しい。あのさあ、きみパンツ一丁でこんなことされたって、ぼくからしてみればギャグだよ。ギャグ。全然面白くないから笑えないけど。でも、涙が出そうなのはなんでだろう。変なの。またきみがばらばらになったぼくを掬いあげて、ひとつにしていってくれるね。

respect:カイネ/救済

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