太陽と一緒に過ごすこの閉めきられたカーテンの中は、一度入ってしまえばおよそ抜け出せなくなってしまう心地のいいものばかりで出来ていた。つんと鼻をつく薬の匂いも太陽にかかれば天馬にとって肺いっぱいに吸い込みたくなるような魅力的なものに変わってしまったし、潔癖なまでに白いシーツはその見た目とは裏腹に優しくふたりを受け入れてくれる。天馬、天馬……、とそれしか言葉を与えられていないみたいに繰り返し自分を呼ぶ太陽を受け入れて抱き締める天馬が、この時間帯に本来あってはいけない筈のものが机の上に無造作に散らばっているのを見つけた。
「……太陽、また薬飲んでないの」
「だってそれ苦いんだよ」
「だってじゃなくて、ちゃんと飲まなきゃ、治る病気も治らないってば」
やんわりと太陽の肩を押し返して、ベッドのすぐ横にある机の前に立つ。天馬からして見れば夥しい数の錠剤と粉薬とが封も切られずにばらまかれている。これを毎日飲み続けなければいけない太陽の気持ちもわからなくもない。でも確かにこのひとつひとつが太陽のいのちをぎりぎりのところで繋ぎ止めていた。慣れた仕草で棚からコップを取り出した天馬は、水を汲んでこようと歩きだして、そして自分の腰を絡めとる二本の細い腕の存在を知る。
「どうせ無駄なんだ、……全部無駄、看護師さんたちが話してるの聞いちゃったんだ、ぼくはもう駄目だよ、どれだけ苦しい思いをしても、きっと助からないって……」
肩甲骨の辺りに、太陽の一番強い熱を感じる。きつくきつく抱きすくめられて、あんまりに濃い感情にあてられて、息が詰まりそうになった。
「こわい、こわいよ天馬、いのちよりもなによりも、きみを失うのがこわい」
表情さえ見えないが、太陽は静かに泣いているのだろうと、そう天馬は思った。腹にまわされた痩せこけた手に手を重ねる。
「大丈夫、太陽は助かるよ、大丈夫」
「天馬」
「なにがあっても、おれが幸せな太陽を守ってあげる、ずっと、ずっと」
天馬は口に含めるだけありったけの薬を舌の上にあけて、振り向きざまに太陽に深く口付けた。守るからね、太陽。おれだけが太陽を守るからね。だからひとりでどこかに行ったりしないで、どうか必ずおれも一緒につれていってね。約束だよ、約束。お願い、だからね。

respect:少年よ我に帰れ


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