先輩の細く骨ばった白い指がおれの腕を、頬を、脇腹を、なんとなく掠るだけでも堪えられないような気持ちになって、その度にいっそ跡が残ってしまうくらい強く強く力を込められても構わないと思っている。おれに触れるときの先輩は決まって酷く臆病だった。嫌だよね、ごめんね、なんて何度も謝りながら、それでもきみを手放せないんだって、ずるい大人の言い訳をぬるい吐息と一緒くたにしておれの耳へと吹き込む先輩の、一番脆い場所が剥き出しになる瞬間は、なんだか自分でもよくわからない優越感に似た感情をゆっくりと時間をかけておれに覚えさせた。おれが欲しいくせに、無理やり奪っていくだけの度胸はどうにも持ち合わせていない先輩には、牙を抜かれた狼という言葉がとてもよく似合っている。
「雪村、雪村、寒い、寒いんだ、とても……」
「せんぱい」
「ねえ、お願い、これで最後にするから、絶対、約束するから、君に触れたいんだ、雪村、」
おれがうんともすんとも言わないうちに、先輩の指は芋虫のようにおれの掌をはいまわって、手首にうっすら浮かぶ血管をひとつずつなぞっていく。ぞくぞくと背筋をかけ上がる悪寒の中にほんの少し混ざる気持ち良さを見て見ぬ振りするのは許されない気がした。ぎりぎりまで細められた先輩の目がおれを見下ろしている。食べられたいと思った。常に満たされることのない飢えに晒されているあんたに、おれの体を差し出したいと思った。鋭い牙を突き立てられることはもう二度と叶わないけれど、代わりにどろどろに溶かされて、あんたの一部になってしまいたい。あんたの生きる糧になりたい。先輩は相変わらず拒絶されることに怯えながらおれに触れる。そんなこと絶対あり得やしないのに。
(おれが、おれだけが、先輩の味方になれるんだ)
今日はいつもより手つきがざわついている。そういえばこれで最後にするから、なんてすぐにわかってしまうような嘘をついていたっけ。最後なんてそんなもの、おれたちには必要ないよ。ずっとおれを望んでいろよ、先輩。