細い首筋になまあたたかい吐息を吹き掛ける度に跳ねる肩が少しだけ面白い。天馬くんは大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、いやいやと頭を振る。そうするとさっきまでおれが苛めていた場所に襟足がかかって、まるで邪魔をするように小刻みに震えてみせる。鼻先でそこを乱暴に掻き分ければ、よりいっそう赤くなった肌がおれを出迎えてくれた。込み上げるなにかを必死に堪えて、ただひたすら俯いてばかりの天馬くん。とうとう柔らかそうな頬を伝っていく涙は、そのまま床へ落としてしまうには酷く勿体ない気がした。舌で舐め上げるだけで、きみはまた怯えて泣いた。
「ひ、う、やだ、かりや、」
「涙って、普通はしょっぱいものなのにさ、なんだろう、天馬くんのはあんまりそういうの感じないなあ」
柔らかくて、甘くて、舌触りの良くて、そんな天馬くんの肌に慣れきってしまったから、味覚がおかしくなっているのかもしれなかった。堰をきったようにして際限なく溢れる滴を、すべて残らず、唇で受け止めていく。涙や唾液にてらてらと光る頬、首筋、剥き出しにされた天馬くんの肌に、本当は随分と前から思い切り噛みついてやりたい衝動に駆られているのだけれど、そうやってがっついて嫌われるのは絶対にイヤだから、大人しく我慢している。箍が外れて、自分がどうにかなってしまいそうなのが恐ろしいのもある。
「天馬くん……天馬くん……、好きだよ、好きなんだ、天馬くん……」
「っ、すき?おれが?すきなの?」
「うん、本当だよ、本当に好きなんだ、信じて、おれのこと信じて……」
天馬くんの丸まった背中に覆い被さって、耳朶へ吹き込む言葉は、自分でも信じられないくらい弱々しかった。
「かりやは、」
腕の中で縮こまっていた天馬くんが小さく身動ぎをしたあと、肩越しにおれを見る。
「かりやは寂しいんだね」
誰もいないところに置き去りにされたひとりきりの子どもがなにかにすがりたいときに絞り出すような声で呟いたきみのほうがずっと、ずっと寂しそうだと思った。そんな声をしておれの名前を呼ばないで。そんな目をしておれを見ないで。駄目になってしまうんだ。きみ無しで生きていけなくなったら、なりふり構わずきみをどうにだってしてしまう。おれを受け入れて欲しくなる。なにもかも全部さらけ出して、そうして天馬くんが欲しい。
「寂しいから、欲しがりなんだよ」
背中に浮かぶ肩甲骨を唇でたどっていく。堪え性のないおれの犬歯はそこだけ別の意思を持って、言うことを聞いてくれない。最初の甘噛みでいよいよ限界を迎えたおれは、獣以下の浅ましさを以てむしゃぶりついた。今夜きみはおれのものになる。


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