走っても走っても追いつけない背はどんどん遠くなって遂に見えなくなってしまった時あたしはとうとう心が折れて足がすくんでその場に膝をついた。ただあの人の役に立ちたいだけなのに、どうしてあたしはこんなに弱いんだろう。悔しい。悔しい。涙を零したら自分に負ける気がしてぎゅっと瞳を閉じた。友達に大見得きっといて自分はこの様か。馬鹿野郎って、お館さまは怒るだろうなあ。罵声と一緒に大きな拳骨落とされるに違いないや。あたしお館さまの拳骨も説教も大嫌いなのに、ああ嫌だ。………そうだよ。嫌だよ。こんなところであたしは立ち止まるの。死ぬの。あそこに転がってる骸みたいに、一人寂しく息絶えるの。嫌。ふざけるな。お館さまにど突かれるのも死ぬのも勘弁、ならどっちも先送りにしてやるしかないじゃない。ゆっくりと瞳を開けると涙が零れた。視界がぼやけてよく見えない。早くしないと後ろから直ぐにでも追い付かれる。あたしはあんた達よりもずっと未来を見ているから、走るよ。全力で。それじゃあお先に。あたしがお婆ちゃんになった頃にでも、もう一度迎えに来て。
早くしないと置いていくよ。不意に茂みから声がした。分かってるわよ、あんたこそ足手まといにならないでよね。忍びらしくない奇抜な色の布がちらちらと視界の隅で揺れる。
行こう。
うん。
あたし、負けないから。
うん、あたしも。
絶対、幸村様を守るから。
うん。
守って、その先を繋げていくために。
…………うん。
行こう。
もう決定していて変えようの無い結末があたし達を待っているのは分かってる。あたしの腹から流れ続けるモノも、あの子の首を真っ赤に染める血も、変わらない。だけどそんなのはもうどうでもよかった。
走り続けられるなら、それでよかった。