深夜のコンビニはもの寂しい雰囲気で満ちている。聞き慣れた音をたてて俺を迎えてくれた自動ドアを通り過ぎて、乱雑に積み上げられたカゴから適当なやつを抜き出す。一番上はなんとなく、誰かの体温が残っていそうで嫌だった。
雑誌が並ぶ棚を流し目だけで確認。これ見よがしに胸を寄せる女が表紙の下品なポルノ紙達が酷く陳腐だ。中学男子にとってああいうものに興味を持てなくなったのはあり得ないことだと思う。なんというか、枯れている。そんなの自覚してる。
一周ぐるりとまわってからレジに向かおうとして、カゴの中にジュースが入っていないことに気付いて引き返す。虫の羽音のような不気味な音が響く冷たいガラス扉の前に見慣れた姿があることに、思わずカゴを取り落としそうになった。
「……あれ、倉間じゃん、久しぶり」
「……こんばんは」
清涼飲料水や炭酸水ばかりが寄せ集められた俺が行きたい扉の隣、南沢さんは財布だけを持ってそこに立っている。
「学校以外の場所で会うの初めてだな、なに買ってんの、エロ本?恥ずかしがらずに中身見せてみろって」
「や、ちょ、やめ」
「お前さあ、こんなもんばっか食ってるから身長伸びないんじゃねえの、デザートばっか、女みたい」
学校以外ってあんたは言うけど、部活を辞めてから学校でだって録に顔を合わすことは無くなった。本当に久しぶりなのに、俺はずっとずっと会いたかったのに、あんたはまるでそうじゃないみたいだ。俺がいなくても全然平気。普通に生きていけてる。
その内俺のカゴの中を物色するのをやめて、なんでもなかったように棚からコーヒー缶を手にとった。ブラックと書かれた黒い外装が、大人のしるしに思えた。
盗み見た横顔は相変わらず怖いくらいに整っている。目の下にほんのり浮かんだ隈。こんな時間まで頑張ってるあんたが報われると良いのに。俺だってあともう一年もしない内にそういう時期が来るけど、きっとあんたみたいになれないよ。
「南沢さん、ちょっと屈んでみてください」
「なんだよ、変なことしたら10倍返しな」
目の前で開けっ放しの扉から洩れる冷気に揺れてるさらさらの髪に指を埋めた。シャンプーの香りが鼻を掠めていって、苦しくなるくらい胸が締め付けられるような感じがする。
「なにしてんの」
「頭を撫でてます、まだ受験とかよくわかんないけど、あんたはよく頑張ってると思うから」
それからしばらく南沢さんは黙っていたけど、なにを思ったのか思い切り抱きつかれて、今度こそ俺はカゴを落としてしまった。パックに入ったケーキやシュークリームが潰れた嫌な音がした。
「倉間」
「え、はい、あの、これどうしたら」
「俺やっぱお前のこと好きだわ」
「……ありがとうございます」
好きなら責任とれよ。俺、あんたのせいで人生めちゃくちゃになりそうな予感でいっぱいだよ。
深夜のコンビニは人もまばらだ。ひとりレジを受け持つ店員が、半目で俺達を見ていた。