汗が止まらない。照り付ける太陽に思考まで焼かれていくようなこんな暑い日は、何をするのも億劫だ。縁側に腰掛け半分溶けかけたアイスバーを片手に力なく項垂れる京介の足下へ水飛沫がかかる。のろのろと顔を上げればホース片手に庭を駆け回る天馬と視線が合った。麦わら帽子の下から覗く年相応の笑顔がいかにも彼らしくて、京介はその眩しさに目を細める。
向日葵を植えようと思った。そうすれば殺風景なこんな庭も少しは見栄えのするものになると思った。何よりもきっと天馬が喜ぶだろうし、京介は天馬の為ならなんだってしてやろうと決めていた。大きく育った向日葵の下で笑う天馬と、それをここから見つめる自分とを想像する。心なしか口許が優しく持ち上がった気がした。ずっと遠い未来でもこの風景は変わることがない予感がある。アイスはとっくに溶けきっていて掌が不快にべたつくけれど、京介の気分は良かった。天馬が水撒きをしてくれたお陰で、なにもかもが冷えきったみたいだった。
「それが終わったら、久しぶりに外行くか」
「ほんと?」
「ほんとほんと、兄さんの見舞いに一緒に連れてってやるよ」
「やった!あとついでにコンビニも寄りたい!」
「ちょっとだけならな」
急いでホースを纏める天馬を眺めながら、京介はふと感じた口寂しさに手元に残った棒切れをかじる。
京介が天馬を合意の上でこの家に連れて来てから早一週間、軟禁という言葉が正しいのかどうかは知らないが、何にせよこんなに穏やかな気持ちでいられるのだから、悪いことだとは微塵も思っていなかった。
見上げた空に浮かぶ大きな入道雲の向こうから、ふたりで過ごす、最初の夏がやって来る。