六条の名を戴く河原には死が漂っていた。わざわざこの空気を楽しむ為だけに足を運んで来た悪趣味共の群がりを掻き分けてゆく政宗の頬を、斜陽が鈍く照らす。彼には珍しい、絶望をそのまま形にしたような表情であった。
「幸村、どこにおる、幸村、幸村よ」
見せてはならぬ。あれの澄み切った瞳に、汚れた狐の残骸など映すべきでない。この場所こそ地獄なれば、次に閻魔に見入られるのはきっと幸村だ。
「政宗殿、幸村はここに」
探し求めていた声だけを頼りに政宗は人混みの中からその手を掴んだ。冷たく凍えた指先はなんの反応も示さず、まるで死人へ触れているようだった。
光を透すことのない濁った視線が見つめるその先には、ひとつの首が晒されていた。固く閉じられた目蓋と歪んだ口許が無念を語る、まごうことなき石田三成が確かに、そこに、そこに。
「お身体はどちらへいってしまわれたのか、随分と小さくなられて、三成殿もさぞ困っておられましょうに」
「目を伏せい、見るでない、見るでないぞ」
「三成殿、どうして、どうして、あ、あああ」
許せとだけ呟いて、気が触れる寸前の幸村の鳩尾へ拳をうずめた。受け止めた身体はあまりに軽く、政宗まで目眩を覚える程だった。
(死して尚どこまでもこやつに付きまとう卑しい狐の亡霊め、冥土へ連れてゆかせぬぞ、貴様は永遠に一人であれ、わしには幸村が必要なのだ、やらぬ、もうなにも失わぬ)
腕の中の幸村を抱え直し、元は三成だったものを見据える。獣は例え首だけになろうとも地を這いずり回れる。同じ獣同士、政宗は誰よりもそのことを知っていた。今だって閉じた目蓋越しにこちらを覗いて、心の内で嘲笑っているくせに。