何もかも焼け尽くしたここがまた再び命を育むまでにどれだけの時間をかけなければならないのか想像するだけで気が遠くなる。そんな偽物に近い感傷の一方で枯れ枝と果てた木屑たちを踏み締める度に響く乾いた音が、そろそろ聞き飽きていたりもする。寒いと陸遜は思った。まだ確かに炎の熱がこの場所には残っているというのに、寒くて寒くて悴んだ足元はもう一歩だって動かせそうになかった。
見上げた雲は紫に燃えている。嵐の来る前触れなのだと、隣の呂蒙が言った。撤退の用意はほとんど済ませてあるから何も心配することは無い。遠すぎる空にがらんどうの心を寄せて、陸遜は再び睫を伏せた。
「私がいなくなれば、貴方は楽になれるんでしょう」
呂蒙の息が一瞬詰まったのが分かった。たったそれだけで、もうこれから彼の傍にいられないと思った。
「何も仰らないで結構です、貴方は何もかも聞こえない振りをしているから、もう構いません、ただ、抱いて欲しいのです、本当はどこまでも付いて行きたかったけれど、私はここから動くことが出来ないのです、抱いてください、この身体に貴方が残るように、強くしてください」
最後の辺りは堪えきれず涙声になっていた。自分の存在が呂蒙の重みになるのは、そんなことは絶対に許せない。その胸に叶わなかった思い出を抱えて、凍えて眠れるような安らかさで立ち尽くしたまま死のうと思ったのだ。
抱き寄せられた広い身体の中に縮こまるようにして身を潜めた陸遜の茶色に焦げた髪を、呂蒙の無骨な指が掻き上げる。
「寒いな」
「はい、とても」
「だからここから動けないのは、お前だけじゃない」
優しく笑ってみせた呂蒙の言葉に、陸遜は柄にもなく大声で泣いてしまいたくなった。人に愛されるというのは、存在を許されたことによく似ている。ここからもう一人では歩き出せない。隣に誰かを連れ添わなければ生きていけなくなったこの身はあまりに不自由で、けれどいとおしい。
respect:焼け野が原