※パロディ

その子どもには名前が無かった。身内も尊厳も自由だってありはしなかった。代わりに与えられたのはたったひとつの番号だけ。01。ラボで最初に作られた被験体、そして他のどの子どもよりも優秀で一番だったから、だから01。

トロワ・バートンはガラスを越した向こうを複雑な思いで睨み付けていた。似合わない白衣をその身に纏う彼はこのラボに勤める研究員である。本来なら下っぱであるはずの自分がどうしてこんな重要なプロジェクトを一任されたのか、上からの呼び出しがあってから数日経った今もそれはわからずにいた。もうすぐ脳波のチェックが終わる。そうしたら後はいつもの薬物投与を済ませて、もう今日はおしまい。トロワは深く深くため息をついた。その薬物投与が一番嫌な時間だった。手袋をしているとはいえ、直にあの子どもへ触れ、接しなければいけない。憂鬱な気持ちで報告書へと走らせていたペンを止める。いつの間にか甲高い機械音が響いていた。
何重にもセキュリティが施されている扉を開くため、コンソールパネルを慣れた手付きで叩く。子ども、01は測定終了の合図に気付いていないのか椅子に座ったままどこか遠くを見つめては呆けている。
トロワは注射器やら薬やら必要と思われるものを適当にポケットへ投げ入れて扉をくぐった。さすがの01もそこでやっとトロワの存在に目を向けると、大人しく腕を差し出した。
今日の薬はなんだろう。強化剤は後の副作用が酷い。慣れさせるための毒物ならもっと酷い。それはトロワにも知らされておらず、彼はただ上から支給される正体不明の薬を01へと投与しているに過ぎなかった。
針を肌に突き刺すとき、ほんの少しだけ01は表情を歪める。この子どもが痛覚なんて感じるわけがない。ならばそれは人間としての最もらしい感情、恐怖であった。
01は兵器だ。そう遠くない未来にきっと戦争の道具にされる。人間以外に感情なんていらない。精神操作が上手くいっていないのだろうか。後で報告書に付け足しておかなければ。少しの感情のブレだって01には許されない。

(可哀想な子ども、お前はこれから先一瞬だって幸せになどなれない)

未知の液体が自分の中に流れ込んできているというのに、01は下を向いたままひたすら黙りこくっていた。その無理やり鍛えさせられた強さがとても美しかったし、同時に酷く汚らわしくトロワには思えた。

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